顧問早水輝好「65歳になって」

コラム第26回

65歳になって

2023年12月25日
早 水 輝 好

 私はこの7月に65歳になった。1958年(昭和33年)生まれで、いわゆる花の中三トリオ(森昌子、桜田淳子、山口百恵)と同学年である(ただし山口百恵は昭和34年の早生まれ)。この年代は実力派女性歌手が揃っていて、上記3人に加え、同学年に岩崎宏美、伊藤咲子が、1学年上の昭和33年早生まれで石川さゆり、八神純子がいる。男性歌手は太川陽介ぐらいしか知らないが、今年で退任した巨人の原辰徳監督となでしこジャパン優勝時の佐々木則夫監督が同い年である。阪神の岡田監督は新聞に「65歳」と書かれていたが、もう少し上だと思っていたので調べたら、やはり1年上(昭和32年生まれ)で、優勝時は誕生日前のため65歳だった。

 5年前に60歳になる直前に環境省を退職した時は、これが人生の区切りでいよいよ第2の人生だと思った。その後いくつかいただいた非常勤の仕事の一つは65歳までだったので、次の区切りは65歳と思っていたのだが、その前に思いがけずフルタイムの仕事に就くことになって現在に至っている。結局、やや余裕があった第2の人生は3年弱で終わり、再び仕事に追われる第3の人生に入ったまま、65歳を通過しようとしている。

 最近は60歳より65歳の方が区切りとしていろいろと使われているようだ。例えば近所のクリーニング屋には「金曜日は65歳以上2割引き」のポスターがあった。「シニア」の区別としては明らかに60歳より65歳の方が多くなっている。新型コロナのワクチン接種でも65歳が重症化しやすい年齢の区切りになり、第6回目の今年の春接種は「65歳以上かそれ未満の基礎疾患のある人」が対象だった。接種が8月までなのに誕生日が7月のためなかなか接種券が来ず、市役所に電話して早めに送ってもらい、何とか8月の接種を予約した。
 その65歳の誕生日の前日、高校の同窓会があった。久しぶりに出席するかと帰省を兼ねて岐阜に行って参加したら、帰京翌日(誕生日)にのどの痛みから発熱し、翌日に医院でコロナ陽性判定、そのまま1週間家庭内隔離生活となってしまった。通常の風邪症状とは明らかに異なり、体のだるさや頭痛、関節の痛みなどはむしろインフルエンザに似た症状だった。
 医院では、解熱剤、消炎剤に加えて「ラゲブリオ(一般名モルヌピラビル)」という抗ウイルス剤が処方された。それが効いたのか2日ほどで症状が軽くなり、家内にうつすことも後遺症もなく完治した。感染済みの次男によれば「オレの時は抗ウイルス剤なんて出なかった」そうで、家内からは「65歳になったから出たのよ。誕生日プレゼントだったのね。」と言われて、妙に納得した。(高齢者でも解熱剤だけだったという話も聞くので、抗ウイルス剤の処方は医師の判断のようだが。)結局、ワクチンの春接種は予約日直前の感染のために流れ、秋に同じ接種券で打つことになった。なお、同窓会で近くに座った人や実家の家族からは他に感染者が出ておらず、感染源は不明のままである。

 そんな65歳の誕生日の前後に、年金の通知もやって来た。年金は63歳から一部支払われていたのだが、本格的には65歳からのようで、受け取りを繰り下げるかどうかという問い合わせだった。私の場合は国家公務員だった後に社団法人に勤務しているので構造が複雑になっており、共済組合と年金機構の両方から「正確に書こうとして難解になる」という典型的なお役所の文書が送付されてきた。細かい点は理解できなかったが、いずれにしても今はお給料をいただいているのでそれがなくなったら請求すればよい、ということだけ理解して書類をしまい込んだ。そうしたら、今度は生命保険会社から個人年金の通知が来て、こちらは65歳までしか繰り下げられないのでお支払いしますという。若いころから頑張って積み立ててきたご褒美と思い、こちらは有難くいただくことにした。
 次に来たのは市役所からの介護保険料の支払いを求める通知である。今までは給与から天引きされていたが65歳からは市役所に直接払って欲しいとのこと。どうして65歳で支払方法が分かれるのか理解できなかったが、そういう決まりであれば従うしかないので、振り込みの手続きをした。

 このように自分が65歳だと知らされる手続きが続く一方で、体力的な面で65歳という年齢を感じることも多くなった。役所で働いている間は退職まであまり体力的な衰えを感じなかったが、退職してからは、コロナの流行もあって自分の体に向き合う時間が増えたためか、いろんなところにガタが来ていることに気づいている。
 しかし、世の中、65歳を超えてもバリバリと働いている方が山ほどいる。政治家がその最たるもので、若く見える岸田首相も1学年上の66歳、三鷹市の河村市長は69歳、バイデン大統領に至っては81歳である。個人営業の職業の方も同様である。岐阜にいる兄は70歳を超えたが、これまでと同じように商売を続けている。この事務所の小澤所長も私より2歳上である。私は退職した時に、それまでの国家公務員としてのすさまじい働き方がやっと終わって、これからは自分の時間を大切にしてもう少しのんびり生きていこうと思ったのだが、結局仕事に追われる日々に逆戻りしてしまった。残念に思いつつも、まだ働けるうちは働いた方がいいのかなとも思う今日この頃である。

 65歳は果たして老人なのか、実はまだ壮年なのか、よくわからないまま時は過ぎていく。65歳になった2023年ももうすぐ終わり、新たな年の半ばで65歳は卒業となるが、まだ人生の先は長い。先日、ある会合で環境省の元上司(68歳)に会ったら、「早水君、背中が曲がってて老けて見えるよ。もっと背筋伸ばさなきゃ。」と注意され、全く逆ではないかと恥ずかしかった。猫背は昔からなのだが、そういえば人間ドックの測定で最近は毎年身長が縮んでいた。人間ドックで前年の身長を超える(せめて維持する)ことを目標に、来年は胸を張って背筋を伸ばして生きていくことにしよう。体と心の両面で。

 皆様、よいお年をお迎え下さい。

65歳関連グッズ(左から、新型コロナワクチン令和5年春接種券、
抗ウイルス剤モルヌピラビル、年金関係のチラシと案内)