顧問早水輝好「街の緑と開発」

コラム第25回

街の緑と開発

2023年10月30日
早 水 輝 好

 週末に庭の芝刈りをした。園芸の本には月1~2回とか毎週とか書かれているが、結構手間暇がかかるのでその頻度では無理である。我が家は梅雨明けの7月上旬とそろそろ緑のシーズンが終わる10月末の2回と決めている、というよりこれが最小限の回数として定着した。(もっとも、今の我が家は「芝刈り」ではなくて「芝・クローバー混成緑地の草刈り」だが。)
 今年の猛暑は庭にも影響が出て、例えば夏に生えてきて秋に咲くホトトギスが「焦げて」しまい、日なたに出てきたものは全部枯れてしまった。今、かろうじて日陰に生えたものが生き残って花をつけている。ゴーヤーは豊作だったがミョウガは不作。お隣も同じだったので、これも暑さの影響と思われる。
 以前のコラムにも書いたが、我が家の芝生は、家を建てるときに南側の駐車スペースをどうするか考え、値段の安さが最後の決め手になって導入された。結果的に夏の照り返しが減って1階南側の部屋の気温を下げるのに貢献している。反対に2階は、望遠鏡を出すスペースが欲しかったのでベランダを広くしてルーフバルコニーにしたのだが、この照り返しが予想以上だった。幸いブラインドシャッターを設置していたので、ブラインドを水平に止めることで反射光を遮って風を通すことができている。これがなかったら、隣接する部屋は温室になってしまって暑くて寝られなくなっていたに違いない。

 住居専用地域に家を建てる場合の建ぺい率は通常40%か50%である。残りの50~60%をどのようにするかは建て主(建売住宅の場合は売主)の好みに委ねられ、多くの場合はコンクリートで駐車用のスペースが作られる。このため、三鷹市内のように畑や緑地が多い街で宅地開発が進むと、着実に緑が減ってコンクリートの地面が増えることになる。近年の猛暑の原因は地球温暖化と言われているが、都会では緑地の宅地化に伴うヒートアイランド現象の増大がさらに温度を上げる要因になっていると思われる。
 緑地を宅地にすることを規制して緑を守る仕組みとしては、例えば「生産緑地」がある。市街化区域内の農地を「生産緑地」として登録しておけば宅地並み課税を免れることができる、というものだが、どうも相続などの際に宅地として売ることを完全に止めることはできないらしい。そうなれば緑地だった土地の40~50%は家が建つ分として確実になくなり、その他の部分も含めてたぶん実際には80~90%以上の緑地が消失する。庭の広い我が家ですら、北側の自転車の駐車スペースや家の周りの砂利敷の部分があるので、緑地になっているのはせいぜい敷地の4分の1である。
 千葉市に出向しているときに、「環境基本計画の点検」を行ったことがある。基本目標の1つに「緑豊かで水辺とのふれあいを高めたまちをつくる。」というのがあって、緑地の確保目標水準が定量的な目標として決められていたが、どういう施策で達成するのかが正直よくわからなかった。公共施設としての公園・緑地の整備はできるが、個々の住宅の緑まで手を出すことはなかなかできない。最終的には個人の姿勢に委ねるしかない。今はどうなっているのかと検索してみたら、千葉市ではちょうど「千葉市緑と水辺のまちづくりプラン2023」を作ったらしく、その中に都市緑地法による「緑地協定」という手法が紹介されていた。これも土地や建物の持ち主の協力が必要な対策ではあるが、インセンティブの付与などで、ぜひ市街地の緑の保全を推進していって欲しい。

 国レベルの自然保護行政は「貴重なもの」の保全に限られることが多い。希少生物や貴重な生態系を守る仕組みはあるが、「普通の緑」を守る仕組みは少ない。最近ようやく「里山」の重要性が言われるようになり、また「ネイチャーポジティブ」「30by30」という新しい考え方が提唱されて保護エリアが広がってきたが、そもそも生き物や生態系が「希少」「貴重」にならないようにすることが実は大事なのではないかという気がする。そして、普通の緑を守るには、行政より我々一般市民や不動産を扱う人たちの意識が重要ではないかと思う。ビッグモーター関連で、除草剤を撒いて街路樹を枯らしてしまうということがあったが、そんなことを考える人がいること自体、悲しいことである。
 東京では神宮外苑を再開発するかどうかで揉めている。開発者は樹木の一部保全や移植で一定の自然は守りますと言っており、科学的にはありうる対応策なのかもしれないが、せっかくあそこまで育てた都会の緑にわざわざ手をつけることが、今の東京に必要なのだろうか、という素朴な疑問がある。東京では他にも高層のオフィスやホテルの開発計画が目白押しだが、人口減で経済成長も以前ほどでない日本で高層ビルを作って、本当に全部が埋まるのだろうか。また、高層ビルは将来必ず老朽化して建て替えが必要になるが、簡単にできるのだろうか。
 日本人は欧米に追い付き追い越すために、どんどん新しいものを作ってきた。しかし、そろそろ「今のまま」でゆったり生きることを選択してもいいように思う。

 我が街三鷹でもマンション建設や宅地開発が続いており、近所にも宅地開発を予告する看板が最近2つ立った。一つは13戸、もう一つは22戸という大規模なもので、いずれも緑地を宅地にするものである。ただ、別のところに最近建った5戸は、建てる前から宣伝しているのにまだ1戸しか売れていない。住み良い街と人気の三鷹でも、家を建てれば必ず売れる状況ではなくなっているのではないかと思う。
 芝刈りの前にブラックベリーの枝の剪定をしていたら、新芽をせっせと食べる青虫がいたし、別のところでは久しぶりに大きなカマキリと鉢合わせしてお互いにびっくりした。こういう普通の虫たちが住む普通の緑を、もっと大切にしていきたいものである。

近所の宅地開発をアナウンスする看板。22区画・2,963㎡の大規模なものである。