顧問早水輝好「停電」

コラム第30回

停 電

2024年9月2日
早 水 輝 好

 パリオリンピックが終了し、パラリンピックが始まった。オリンピックは久しぶりの有観客で、日本人選手の活躍もあり盛り上がった。個人的にも、昔住んだことがある街のあたりで開催されているので、懐かしい気持ちもあった。
 ・・・ということを背景に、今回は「続・私が住んだところ(3)」のパリ編を書く予定だったのだが、これを変更して、7月に経験した停電について書くことにしたい。結果的には無事に終わった事案で、電気に詳しい方なら常識的なことかもしれないが、私にとっては結構緊張する出来事だった。迷走した台風10号が各地に被害をもたらした折でもあり、防災の日の直後の話題として、少しでも参考にしていただければ幸いである。やや長い話になるがご容赦願いたい。

 7月22日(月)、ノートパソコン(PC)でメールを見ていた時だったろうか、23時半過ぎに突然電気が消えて真っ暗になった。停電である。何日か前に落雷で一瞬停電したことがあったので、またか、と思ったが、この日は雷雨はあったものの2~3時間前に過ぎ去っており、原因がすぐには思いつかなかった。とにかく電気をつけようと慌てて非常用ライトが入っていたはずの非常用品箱を開けようとして、手探りで引っ張り出したらライトの電池の蓋が空いて電池が散乱した。まだ動いているPCの液晶の明かりで電池をかき集め、とりあえず1つライトを点け、2階に上がって大きな懐中電灯を点けた。
 エアコンが2つ動いていたが、この程度でブレーカーは落ちないはず。念のためエアコンを1つ切って配電盤を見ると、確かにアンペアブレーカーは落ちていない。じゃあ地域的な停電かなと思って外に出たら、隣近所はどこも電気が点いている!ここで初めて緊張が走った。我が家だけ停電?どうして?
 落ち着け、落ち着け、と言い聞かせて自宅に戻り、とりあえず寝ていた家内を起こす。ラジオをつけるが、当然停電のニュースはない。配電盤を改めて見ると、大きなアンペアブレーカーの隣に小さなブレーカーがあり、「漏電ブレーカー」と書いてあって、レバーが「入」と「切」の間にある(ように見えた)。切れているのかどうかよくわからないが、元に戻すにはレバーを下に降ろしてから上に上げろと書いてある。下に降ろそうと思ったが硬くて簡単に下まで降りそうにない。「漏電」はないだろうという思いもあり、とりあえず触らず、まず東京電力に電話をしようと思った。

 その前に、こういう時の蓄電池だ、と思ったのだが、パネルを見ると通常モードのままで電気の動きがない状態(停電なので当たり前)。取扱説明書を見たら、停電になったら自動的に自立運転に切り替わると書いてあるのに、切り替わっていない。手動で切り替える方法もわからず、途方に暮れた。やはり東電に電話するしかなさそうだ。

 そこでふと気づく。電話番号は? 昔なら検針票があってそこに書いてあったが、今はその紙がない。ネット連絡で金額を見ているだけである。電話帳にあるはず、と思って最初のページの「停電のときは」の番号にかけたら「このサービスは2023年12月で終了しました」。え~?(注:実はこの時に見た電話帳は最近来たタウンページだと思い込んでいたのだが、後で確認したら10年前のハローページだったので即刻処分した。ちなみに最新のタウンページの最初のページには、停電の時の連絡先は掲載されていなかった。)
 こうなるとネットで調べるしかない。電池で動いていたPCでググろうとしたら、今度は「接続できません」の表示。そうか、停電でWIFIルーターもダメなんだ。じゃあスマホか。スマホの電池がある間に何とかしないといけない、とますます緊張した。

 スマホで検索すると、それらしい電話番号が見つかった。つながりますように、と祈って電話したらつながった!優しそうな女性の声。状況を話すと、まず地域の停電がないか調べてくれて、それはないとわかる。「サービスの人間を行かせますが、雷雨の関係で立て込んでいます。いつもなら1時間ぐらいで行かせられるのですが、ちょっとわからないので、手があいたら電話させるということでよろしいでしょうか。」・・・ええ?朝まで電話が来るのを待ってるの?エアコンも使えないのに、と焦った私は、先ほどの漏電ブレーカーのことを思い出して、ブレーカーの状態を話した。「それは漏電ブレーカーが切れています。まず入れてみて下さい。」とのこと。「下に下げてから上げるって書いてありますが、硬くて降りないんです」「硬くても降ろして下さい。」「大丈夫ですか?レバーが折れませんか?」「大丈夫です。下げて下さい。」と言われてぐいと下げたら下がった。「下がりましたか?じゃあ上に上げて下さい」と言われて上げたら、無事に電気がついた。

「漏電ブレーカーが何らかの理由で落ちたのですが、それを入れて動いているということは漏電箇所はないということなので、たぶんそのまま大丈夫と思います。ご心配なら明日作業員を派遣しますが、どうしますか?」と言われて、午前中に来てもらうことに。
 そこで、定期的な漏電検査の時に小冊子をもらっていたことを思い出し、探したら「電気安全パンフレット」が出てきた。そこにはちゃんと、停電の際のチェックの仕方と、漏電ブレーカーが切れた時の復旧の仕方が書かれていた。
 そうしたら20分後ぐらいにまた停電。また漏電ブレーカーが落ちていた。今度は上記のパンフレットの記載に従って、①すべての配線用遮断器を切る、②漏電ブレーカーを入れる、③配線を1つずつ復帰させ、ブレーカーが落ちないか調べる(どこかで落ちたらそこで漏電があるということなので、そこだけ外して他を復帰させる)という順番で復帰させたところ、どの回線からも漏電がなかったようで無事に回復。今度は安定したようだった。東電の作業員に説明するメモを作って、2時半にようやく寝た。

 翌日、午前中仕事を休んで待機していたら作業員が到着。作業員の検査でも漏電はなく、停電の原因は雷の可能性はあるが不明とのこと。「おなかが痛かった人が翌日に医者に来て、昨日痛かった原因は何ですか、と聞かれてもわからないですよね。それと同じですよ。」と言われて妙に納得。なぜ蓄電池が作動しなかったかというと「蓄電池は電柱の後ろ、家の電気回線の前にあるので、電柱からの電気が来なくなったら『停電』と認識して代わりに電気を供給します。しかし、電気の使い過ぎや漏電など、蓄電池の後ろにある家の電気回線が原因で停電が起きた場合は、電柱からの電気が正常に供給されている以上、停電とは認識しません」とのこと。なるほど。確かに理屈はそうだ。
 今回の停電をもう少し明快に説明してくれたのは、その日の午後に家内が雨どいの修理を頼んでいた工務店の人だった。前夜の経験を話したら、以下のような説明だったとのこと。「過電流。電柱のトランス(変圧器)のそばで電線が分かれる分電盤から、雷の影響でたまっていた電気が過剰に流れてしまう、ピンポイントの現象。トランスに一番近い分電盤、さらに一番近い早水家にピンポイントで過電流が流れたのでしょう。」
 後で友人の電力関係者に尋ねたところ、上記で概ね正しいとのことで、ネット上の解説記事も教えてくれた。「雷の影響でブレーカーが落ちる原因とは?」というそのホームページ(dinnteco japan)には、原因の一つとして、「漏電ブレーカーは電気によるノイズに弱いため、雷によって起きた電気ノイズを察知して、漏電が起きていなくても誤作動を起こしシャットダウンしてしまう場合があります。」と書かれていた。まさしく今回の現象だと思った。その後、特段の問題は起きていない。

 今回の停電は、地震や台風、雷雨などによる災害に伴う広域的なものに比べればとるに足りないものだったと今なら思えるが、「停電した」という事象に変わりはなく、今まで経験したことがなかったので、冷や汗ものの騒動だった。
 最後に今回得られた教訓をまとめておくので、参考にして下さい。

  1. 非常用の電灯はわかりやすいところに置こう。当然ながら夜停電したら真っ暗になる。
  2. 停電の際の電話番号をわかるところに控えておこう。(多摩地区は0120-995-007)
  3. 非常時の連絡先は常に最新のものを手元に置いておこう。
  4. 今は電話もお風呂も(たぶんガス台も)何らか電気が使われているので停電すると使えなくなる。WIFIもダメなので携帯電話(スマホ)のみが命。予備電池を備えておこう。
  5. ブレーカーは2つある。漏電ブレーカーが切れたら、復旧の際には硬くてもぐっとレバーを下まで下げてから上げるように。
  6. 定期点検の時にくれる「電気安全パンフレット」をとっておいて勉強しておこう。
  7. 停電はいろいろな原因で起きる。蓄電池も万能ではない。

配電盤。真ん中にあるのが漏電ブレーカー、左がアンペアブレーカー。
右が各回路の配線用遮断器(緑色は未使用の回線。我が家には2つある。)