顧問早水輝好「スポーツ新聞今昔」

コラム第23回

スポーツ新聞今昔

2023年6月27日
早 水 輝 好

 早いものでもう6月末、あっという間に半年が過ぎた気がする。歳をとったからそう感じるのか、世の中の動きが速いのか、どちらだろうか。
 以前のコラムのフォローアップを少しすると、藤井六冠は名人戦を制して七冠になり、八冠(全タイトル制覇)も視野に入ってきた。カーリングは男子・女子・混合ダブルスいずれも世界選手権に出場し、男子は惜しくも予選敗退、女子は決勝トーナメントに進んだが初戦負け、その中で昨年は決勝トーナメント入りを逃した混合ダブルスの谷田・松村ペアが予選を1位通過、準決勝も勝って決勝は敗れたが見事に準優勝となった。
 しかし、前にも書いたように、カーリングのマスコミでの扱いは小さい。混合ダブルスで初の決勝進出となった翌日に買った東京中日スポーツの記事は、朝日新聞より小さいものだった。

 私は岐阜市の出身で、物心がついたら中日ドラゴンズ(以下「中日」と略す)のファンになっていた。父親が中日ファンなので中日が勝てば機嫌がいいし、親会社の中日新聞を購読していたのでいやでも中日の記事が目に入る。「しつけ」のようなものだったと言える。
 昔はコンビニなどなかったから、スポーツ新聞を買うには鉄道の駅の売店に行くしかなかった。このため、親が仕事で外出した時など、限られたときにしか買えない「中日スポーツ」は立派なおみやげになった。大学の時に上京して東京にも中日新聞東京本社が発行している「東京中日スポーツ(略称「トーチュウ」)」があると知った時はうれしかったし、通学で駅を通過するので簡単に買うことができるようになった。しかし同時に、こういったスタンド売りの紙面には必ずアダルトページがあることを知って正直驚き、電車の中で女性の隣に座った時などは気をつけてページをめくっていた。

 岐阜では当時スポーツ新聞と言えば中日スポーツしかなかったが、東京では随分多くのスポーツ新聞があることも驚きだった。中日のライバル球団・巨人の親会社である読売新聞系の報知新聞をはじめ、日刊スポーツ(朝日系)、スポーツニッポン(毎日系)、デイリースポーツ(神戸新聞社の発行だと最近まで知らなかった)、サンケイスポーツ(産経新聞社)という具合である(他に「東スポ」なる怪しげな新聞も)。このうち、トーチュウを除けば報知だけでなく他紙も必ず巨人の試合が一面で報じられており、巨人がらみの試合しか放送しないテレビとともに、アンチ巨人としては癪に障る状況だった。
 大学の時の同じ研究室に中日ファンの後輩がいた。彼によると、トーチュウの1面の作り方には一定のルールがあり、①中日が勝てば1面、②中日が負けたときは巨人が負ければそれが1面、③中日が負けて巨人が勝った時は別のスポーツが1面、なのだそうである。私は基本的に中日が勝った時にしかトーチュウを買わないので(それが正しい中日ファンの行動だと考えているので)、この説の検証は難しかったが、十分ありうると思った。

 時は流れ、「巨人・大鵬・卵焼き」の時代が終わって野球ファンも多様化し、スポーツ新聞にもそれぞれの色が出るようになった。デイリースポーツは阪神、サンケイスポーツはヤクルト(一時「サンケイアトムズ」だったことがある)の記事が一面をにぎわすことが多くなった。スポーツ自体も多様化して特にサッカーの記事が増え、私も野球以外のスポーツのニュースが読みたい時には日刊スポーツを買うことがあった。朝日系のせいかあまり野球にこだわった紙面ではないのである。カーリングのニュースもこちらを買って読むべきだったかもしれない。
 最近はコンビニが増え、どこでも新聞を置くようになったので、以前よりトーチュウも買いやすくなったのだが、やはり東京では売れ筋でないのか、販売部数(コンビニに置く部数)自体が他紙より少なく、売っていない店もある。土日によく購入する最寄りのセブン-イレブンでは複数あるのを見たことがなく、私が買ったらおしまいになることがほとんどである。売り切れていることも時々あり、近所に私のような中日ファンがいるのか、週末なので競馬の記事が見たいのか、どちらかな?と思ってしまう。

 環境省にいた時の同僚にF1好きの人がいて、F1の記事が充実しているトーチュウをよく買っていた。彼の説によれば、トーチュウを購入する人は3種類で、①中日ファン、②F1のファン、③安いスポーツ紙を買いたい人、なのだそうである。確かにトーチュウの価格は常に他紙より10円安かった。ところが、この4月から、従来のスタンド売り140円が20円の値上げで160円になり、10円だけ値上げした他紙と同額になってしまった。大事な購買層を失ってしまったのではないかと心配している。
 トーチュウは他紙に先駆けてアダルトページを廃止し、毎日数独を載せているので、最近は数独愛好家の家内の支持をとりつけ、中日が勝った翌日だけでなく試合のない時にもある程度買うようにしている。しかし、肝心の中日が弱くなって、そもそも「勝った翌日」という重要な購入機会が以前より少なくなっているのが大きな問題である。中日ドラゴンズの奮起を促さずにはいられない。

 最近は人々の活字離れが進み、電車でスポーツ新聞を読んでいる人をほとんど見かけなくなった。確かにネットを見れば野球の結果も詳細に知ることができ、動画を見ることもできるので、スポーツ新聞の役割も減ったのだろう。今や新聞そのものの購読者が減って危機になっているから、未だに40年前と同じスポーツ新聞6紙が売られていること自体が奇跡なのかもしれない。
 スポーツ新聞も、内容がスポーツ、競馬・競輪、芸能と偏っているとはいえ、いろんな記事が一度に見られること(一覧性)に魅力がある。一般の新聞と同じである。特定の、自分の好きな記事しか見ないネット記事愛好家より、新聞を読む人の方が視野が広くなるとよく言われるが、その通りだと思う。多様な社会で生きていける人間を育てるための新聞の役割がこれからも継続されることを願い、その中の特異分野であるスポーツ新聞も生き残ることを願う。

中日が負けた翌日のトーチュウの1面の例。左から、芸能ニュース、中日の敗戦試合の中で活躍した新人選手の記事、中日OBの死去のニュース、となっていた。本文中の仮説どおりではないが、苦労の跡がうかがえる。