顧問早水輝好「エネルギー問題」

コラム第20回

エネルギー問題

2022年12月11日
早 水 輝 好

 早いものでコラムも20回を迎えた。いろいろと思いついたことを自由に書かせていただいてきたが、節目の第20回は環境問題の中で最重要課題の一つと思われるエネルギー問題を取り上げることにする。

 私の大学時代、同じサークル(地文研究会天文部)にいた親しい友人3人は、出身学部が違うにも関わらず皆電力関係の企業に就職した。「芸のない奴らだ」と言っていたら私も環境アセスメントの中で発電所を担当することになり、就職後の飲み会の話題が発電所アセス関係になることもあった。ただ、酒がまずくなるのは避けたかったので、温暖化対策については「ご意見拝聴」はしたが本格的な議論はしなかった。私自身が温暖化対策を政策として直接担当する部局に所属したことがなく、議論に耐えられるような十分な情報を持ち合わせなかったからでもある。

 エネルギー問題を外から見聞きしていると、どうも議論がかみ合っていない気がする。同じ土俵に乗っていないのである。産業界寄りの人たちはエネルギー不足を主張し、石炭火力や原子力発電所が必要と訴える。気候変動対策を重視する人たちは再生可能エネルギーの普及が必要と主張し、原発の安全性に不安を抱く人たちは原発の再稼働・新設すべてに反対している。それぞれの主張はもっともだが、それらを同じ土俵に乗せてじゃあ全体をどうしたらいいかという議論がなかなか起きない(まとまらない)のである。

 我が家ではまだ太陽光パネルがかなり高かった時代に太陽光発電設備を設置した。家内から「新車が屋根に乗ってるみたい」と揶揄されたが、「環境省にいるなら率先してやらないと」と思って導入し、一応温暖化対策にわずかながら貢献している(つもりである)。しかし、夏の電力不足の時に「太陽光発電が動く時間帯は大丈夫だがそうでない時間帯が危ない」と言われると、再生可能エネルギー推進派の方には、利用可能でない時間帯や供給能力が不安定な部分をカバーするための「ベース電源」をどう確保するのか語ってもらいたいし、太陽光パネルの廃棄はどのようにすればよいか考えてもらいたい(一応約20年たってもそれほど効率が落ちていないのでまだ大丈夫のようだが)。他方、石炭火力推進派には、石炭火力発電所がないと電力の安定供給ができない理由と、どの程度まで必要なのかをしっかり説明してもらいたい。
 そして、原子力発電推進派の方に一番語ってほしいのは、放射性廃棄物の処分方法である。福島原発の事故で発生した発電所敷地外(一般環境)の除染土の多くは、中間貯蔵施設で一時保管した後、30年後に福島県外で最終処分することが法律で定められており、処分量を減らそうと土の再生利用の検討が進められている。それでも、本当に最終処分場が見つかるのか、懸念が大きい。ところが、原子力発電を行えば、桁違いの高レベルの放射性廃棄物が発生するのに、これをどこでどのように処分するのか、全く決まっていない(今のところどこにも引き受け手がいない)。そんな中で、原子力発電所の再稼働とか新たな原子力発電所の必要性だけ議論していいのだろうか。

 環境省にいたときに、衆議院環境委員会の議員視察の随行で、フィンランドのオンカロというところで建設中の放射性廃棄物の最終処分施設を見学したことがある。地下深いところに埋め込むのである。地元の人たちは、原子力発電所を誘致した責任を感じて同じ敷地内で処分することに同意したものであり、安全性についてはそれを審査する原子力規制当局を信頼していると話していた。かなりの議論がなされた上の結論のようであった。日本では残念ながらそのような真剣かつ総合的な議論はなされていない気がする。必要性と廃棄物処分とが同時に語られないのである。
 原子力発電所が「ベース電源」として本当に必要なら、「60年までOKにして再稼働」なんて中途半端なことはせず、数を限定して新しく安全性の高い原発を動かした方がよいだろう。しかし、「高レベル放射性廃棄物」の処分についての議論を先送りして建設・再稼働の議論だけすべきではない。そんな無責任なことをしたら自分たちの子供や孫の世代に顔向けできないではないか。もし処分できないなら、そんな廃棄物を残して運転することはできないのではないか。

 そもそも、温暖化対策全体についても、若い世代が暮らす未来のために我々大人・老人世代が何かする責務があると思う。
 先般開催された気候変動枠組み条約の第27回締約国会議(COP27)では、途上国における「損失と被害」に対する新たな基金の設立に合意した。温室効果ガスの排出削減により温暖化の程度を減らそうとする「緩和策」、温暖化による影響を少しでも減らそうとする「適応策」の先にある「損失と被害」まで議論しなくてはいけない事態がそもそもかなりの危機的状況である。しかし、温暖化対策(緩和策)自体は、目標のみが先行してなかなか実行が伴わない。現代生活を維持した上でCO2の削減を進めるのは相当難しい話だが、何とか知恵を絞り、皆が協力して対策を進めていかなくてはいけない。
 
 我が家では最近蓄電池を導入した。太陽光発電への「大型投資」を渋った家内も今回は停電時の非常電源になるということで導入に賛成した。しかし、実際にはこの程度の容量ではエアコンをつけたりすると1日程度しか持たないようだ。むしろ、太陽光や夜間電力で充電すれば電力消費のピーク時に放電して使えるので、ピーク時の電力不足対策と電気料金抑制策の面が強い。半導体不足の影響で、注文してから1年後にようやく設置されたが、今度は年度が変わって提出し直した東京都の補助金が審査待ちで、音沙汰がないまま5か月が過ぎた。無事に申請が通ってお年玉で補助金が支払われることを期待しながら年越しすることになりそうである。

 少し早いですが、皆様よいお年をお迎え下さい。

蓄電池(下)とパワーコンディショナー(上)
1年待ったことで導入できた新製品は本体が随分小さくなっていた。