都市プランナーの雑読記-その73/安田峰俊『「低度」外国人材 移民焼き畑国家、日本』

都市プランナーの雑読記 その73

安田峰俊『「低度」外国人材 移民焼き畑国家、日本』角川書店、2021.03

2024年2月26日
大  村 謙二郎

 安田峰俊は現代中国の問題を扱う記事、作品の多い人です。天安門事件のその後を扱った、大宅賞受賞作「八九六四」は面白く読みました。
 本書は中国人外国人労働者だけでなく、ムスリムの国から来た外国人、ベトナム人などの外国人労働者、中国からの技能実習生の実態を、現地調査を丁寧に行いながら描いたノンフィクションである。
 本書では「低度外国人」という、著者独自の用語を使っている。日本政府の建前の外国人材受け入れ政策で使われている「高度外国人材」というのは、まったく実態と乖離しており、日本の外国人労働者の大半は低い技能、技術、語学力、専門力を持たない外国人で、その大半は技能実習生、語学留学生などが現実である。日本の底辺の中小産業、建設業、清掃業、食品加工業、農業、製造業は外国人労働力がなくてはやっていけない実態となっている。そういった事情を踏まえて、今後とも日本は高度外国人材ではなく、低度外国人材に頼らざるをえない国だとすれば、いま、現実の日本で、あるいは送り出し国で何が起こっているのか、その実態を偏見のない態度で観察、インタビューして、考えてみようというのが本書の趣旨だ。
 安田はいままでの外国人労働者問題を扱う論説は、①かわいそう型、②データ収集、分析型、③移民排斥型の紋切り型が多い、と整理している。本書では技能実習生、不法滞在者などの外国人労働者について、いろいろな角度から、現実の生身の当事者に話を聞きながら、日本が外国人労働者問題とどうつきあっていけるかを考えてみようという趣旨で書かれている。
 安田は長年、中国に取材し、中国語も堪能で、中国人の心性、態度などはある程度理解できると考えていたし、親近感を持っていたが、ムスリムのパキスタン人、バングラデッシュ人、不法滞在者となり、自らをボドイ(兵士)と語るベトナム人の態度、考え方について、率直に不快感、違和感を最初は覚えたと言っている。率直な言明で、やはり、その国の言葉を多少なりとも理解できて、コミュニケーションを出来、文化を理解できれば、その嫌悪感の感情は減少できるとの説明は納得できるが、果たして、日本国民全体が見知らぬ外国人の態度、行動にどこまで寛容でいられるかは難しいことだと思う。
 安田は現行の外国人技能実習制度、外国人受け入れ制度の問題点、送出国の企業、団体の問題、日本側受け入れ先企業の問題、それを監視する名目の団体等々、この制度が持つ問題も具体の問題に即して、言及しており、納得できる論述となっている。
 それにしても送出国の経済水準が上がってきた場合に日本に経済的メリットを感じてやってくる国は出てくるのか。特に円安が劇的に進行している日本に経済的魅力を感じる外国人は減少することが大いに予測される。より経済力の低い国から労働力を求める焼き畑外国人労働者輸入政策は破綻に陥るのは自明のことではないだろうか。
 エッセンシャルワーカー問題があきらかにしたように、人間らしい尊厳を持った形で労働を行い、適正な賃金が払われて回っていく経済体制を日本で構築することがまずは求められるのではとあらためて、本書を読んで思った。
 安田峰俊はジャーナリストでもあり、その文章力はわかりやすく、説得力がある。大宅賞を受賞しただけであるし、その取材姿勢も率直で、好感を持てる。若手(1982年生まれ)のノンフィクションライターで中国、中国文化圏に強みを持った作家である。いろいろなウェブメディアに寄稿しているようで、まさに現代の作家にふさわしい。