「都市プランナーの雑読記-その32/北村亘『政令指定都市 百万都市から都構想へ』」顧問大村謙二郎

都市ブランナーの雑読記-その32

北村亘『政令指定都市 百万都市から都構想へ』中公新書、2013.07

2021年8月2日
大 村 謙 二 郎

 北村さんは1970年生まれの行政学者で、現在、大阪大学大学院法学研究科教授。

 都市計画においても大都市問題、大都市圏計画は昔からの重要なテーマであり、とりわけ20世紀の急激な都市化、産業化の進展の中で行政区域を越える、一体の大都市圏が生まれてきて、その土地利用コントロール、住宅政策、大都市インフラの建設と運営など大きなテーマとなってきました。また、この20年近くは国の経済発展にとって、大都市が成長エンジンとしての役割が重視され、都市再生特区やエンタープライズゾーンなどの特別の施策が各国で模索されてきています。
 かつての経済成長時代であれば、大都市が生み出す利益を、国が吸収して成長から取り残されている、あるいは衰退地域に再配分して、国土の均衡ある発展が目指されてきました。パイが拡大する時代では、大都市は自地域から上がる利益の一部を他地域に移転することに対して、ある程度寛容だったといえます。また、大都市に居住、働く人々の多くは地方から大都市に流入してきた第一世代、第二世代が多く、心情的にも自分の出身地域であり、父母、親族がいる地方に対しての繋がり感が強く、地方へ大都市の利益を再配分していくことに対して共感の念があったと思います。あるいは、地方を捨てて大都市に移住してきたことに対する疚しさを補償するという感情があったのかもしれません。
 かつてのような人口増、経済成長が望めなくなった時代においては、先進諸国では大都市に期待するところが大であるが、大都市を構成する自治体もかつての余裕がなくなり、大都市の利益を非大都市地域に移転、再配分することに反感を持つようなり、むしろ、大都市固有の行政需要の増大に対して、自分たちの税収が使えないことや非大都市地域に理不尽にたかられているとの議論すら出てきています。
 大都市に生まれ育ち、就業する人の比率が増大するにつれて、大都市を自分のふるさとと感じる世代が多数となり、地方とのつながり感、連帯感も薄れつつあるのかもしれません。ただその時のふるさと感というものは、かつての農村、田園風景に囲まれた地方空間とは相当異なる感覚になるのではないでしょうか。
 多くの大都市では中心部を構成する自治体と周辺の自治体で、一体の社会経済圏が構成されています。しかし一方で、中心部で発生する需要とそれへの対応についても根本的な矛盾があります。たとえば、道路、交通サービス、文化サービス、医療サービス等は、中心部に流入する昼間人口を想定して施設整備、運営を行うけれど、そのための税源は夜間人口ベースでしか徴収できないといった、典型的スピルオーバー問題が発生します。
 都市計画の領域でも大都市圏の計画単位をどう設定するのか、大都市圏を総合的統一的にマネジメントする主体をどう構築するのか、複数の自治体間の合意形成をどうはかるのか、中央政府、広域政府の役割はといったガバナンス問題、等々多くの課題が存在し、いろいろな調査、研究がなされています。
 そういった問題関心を持って読んだのが北村さんのこの本です。近年急増して20都市までとなった、政令指定都市とはそもそもどのような歴史的経緯で生まれてきたのか。政令都市の機能、課題はなにかなどを具体例に即してわかりやすく解説してくれています。何となく、知っているようで知らなかったことがよくわかりました。
 特に、大都市問題が先鋭的にあらわれている大阪市を素材に、大都市中心自治体と周辺自治体のガバナンス問題をどう考えるのか、一方で特別区といった形で都市内分権の課題とは、そして、大阪都構想が抱える問題、課題等についての説明は、都市計画を専門とするものにも示唆的な分析、提言があり、益するところ大でした。