都市プランナーの雑読記 その69
鶴見俊輔『期待と回想 語り下ろし伝』朝日文庫、2008年
2023年12月18日
大 村 謙 二 郎
本書は1997年8月に晶文社より刊行された「期待と回想」(上下本)を合体したものです。
未読ですが、『鶴見俊輔集』全12巻(筑摩書房、1991.4~1992.3)の構成に従いながら、北沢恒彦・小笠原信夫・塩沢由典の3人が聞き手になって、鶴見の思想歴、行動を回顧しながら多面的にいろいろな話題に沿って、鶴見の半生を語り下ろしてもらうという企画の本です。
鶴見俊輔の本をそれほど系統的に読んでいるわけではないのですが、彼が早熟の天才であったこと、思想の科学を創刊し、長年にわたって編集に携わっていたこと、ベ平連を立ち上げ、その運動の中心にいたことなどはある程度漠然と知っていたので、何となく、彼のリベラルな思想、行動の背景や人生に興味があり読んだ次第です。
彼は東大を首席で卒業し有能な官僚として活躍し「後藤新平伝」を書いた鶴見祐輔の息子です。一方、母親は後藤新平の娘という、名門の一家に生まれた、ある意味でエリート家族の一員です。
彼は一方で強烈なマザコンであると同時に、俊輔を厳しく育てた母親の影響圏から離脱、自立したいとの強い意識を持ち、小さい頃から札付きの不良だったそうです。
といっても並の不良ではなく、15歳までに1万冊以上の本を読んだとか。様々な非行、不良行為が重なり、中学校を放校になり、日本にいることが出来なくなります。何とか父親の伝手でアメリカに渡ります。まともな日本の学歴がないのにもかかわらず、17歳でハーバード大学に入学し、優秀な成績を収めます。彼の非凡さを示すエピソードがいろいろ語られます。日米戦争が勃発して収容所に入れられ、その中でハーバード大学の卒業論文を完成させます。アメリカに残る道もあったのではと思いますが、戦時中の日本に帰ってきます。その後、海軍に入りバタビア在勤武官府に勤めて敗戦を迎えます。
といった具合に早熟の天賦の才能あふれる人だったのですが、一方で、いろいろな意味で反骨精神を持ち、柔軟な思考の人だったようです。この語り下ろし伝もどこまで本当か、自己韜晦の部分もありますが、数多くのエピソードがちりばめられた鶴見俊輔の思索的自伝として楽しく読めました。聞き手の引き出し方も巧みですが、それにしても鶴見の記憶力、説明力、分かり易い表現力にあらためて驚嘆します。
ネットで調べると鶴見俊輔本人の膨大な著作、関連書が存在しています。到底読めそうもありませんが、興味ありそうなテーマに絞って、時間を見つけて読んでみたいものです。