都市プランナーの雑読記-その84/後藤正治『はたらく若者たち 1979~81』

都市プランナーの雑読記 その84

後藤正治『はたらく若者たち 1979~81』岩波現代文庫、2004.11

2024年10月9日
大  村 謙二郎

 以前、この人の文庫を偶然読み、文体の魅力、論理的で考えさせる論述にひかれ、その後彼の著書を結構多く読んできた。いずれも当たり外れがすくなく、どれも満足する読後感を持った。
 この書は、後藤のあとがきによれば、彼の処女作である。日本評論社から刊行されていた『月刊労働問題』に1979年11月から2年間断続的に連載したものをベースに1983年に刊行されたもので,当時の表題は『はたらく若者たちの記録』とのことだ。刊行から20年近くたって岩波書店が岩波現代文庫の形で再刊するにあたって、後藤と夕張取材に同行した写真家の太田順一が解説を書いている。この解説も後藤の人となり、誠実な人柄が描写されていて印象深い。
 本書であるが、30代前半の後藤が,当時若者の組合離れがいわれているが、実際のところ、若者たちはどう現場で働き、何を考え、何に夢、希望を持っているのか等を後藤自身が現場に入り込み、彼らと一緒の体験をしながらルポした記録集である。当時の若者の等身大の姿が描かれている。過剰な思い入れも、賛美もあるわけではないが、労働に取り組む若者の真摯な姿が伝わってきて、いま読み返してもみても、決して古びたルポという感じはしない。当時の若者の価値観と現代の若者の価値観、行動様式の変化は大きなものがあることは確かだが。
 取り上げている職種、職場は以下に示すように多種、多様だが、それぞれの労働現場の大変さ、過酷さ、その中で仲間同士のつながりが感じられていて、読後感がさわやかだ。
 いまとなってはなくなった職種、衰退した職種もあると思うが、高度成長期の働く若者を知る上で、貴重なノンフィクションだと思う。
 取り上げられている職場は次のとおりだ。

1.潮風匂う男たち:大阪築港にはたらく港湾労働者
2.長距離便:中小トラック業者の長距離便労働者
3.原生国有林:熊本営林局綾営林署柚園国有林で働く山林労働者
4.210キロの下:新幹線総局大阪保線署で働く鉄道保線職員(国鉄職員・下請工)
5.泥の世界:大阪市下水道局東事務所で働く下水道修理職員
6.システム・エンジニア:場所は特定されていないが多分関西か。コンピューター産業で働くSEの苦悩、憂鬱、覚めた認識を描写
7.憂鬱なる鉄鋼王国:新日鉄八幡製鉄所で働く工場労働者(この当時は季節工はいない)
8.ネジ工場:京都で自主管理を行っているネジ工場「寺内製作所」のネジ職人、職工
9.延縄漁船:高知県安芸郡東洋町甲浦、延縄漁船で働く漁師
10.ジョッキー渡世:大阪のディスコのディスクジョッキーたち
11.猪飼野:さまざまな職種の在日朝鮮人の若者(ちり紙交換、プラスチック再生、サンダル製造等)
12.地下労働者・ガス突出・下請組夫の歌:この3つの話題は夕張炭鉱で働く炭鉱労働者、下請け労働者たちの生態を描いた3つである。夕張の社会主義的平等社会とその中での差別構造、過酷な資本の論理が描かれている。ガス突出、下請組夫の歌の2つは単行本化にあたって、夕張を再訪して書いた記事だ。
 すぐれたノンフィクションは歴史的証言としても、読み継がれるだと思う。今の若い人たちはこういったノンフィクションを読むとしたらどういった感想を持つだろうかと考えた。