都市プランナーの雑読記 その89
山下祐介『地域学をはじめよう』岩波ジュニア新書、2020.12
山下祐介『地域学入門』ちくま新書、2021.09
2024年12月25日
大 村 謙二郎
この人の本で最初に読んだのは『限界集落の真実』(ちくま新書2012)だ。世上いわれている、限界集落消滅論に対して全面的な批判を加え、限界集落と言われる集落がしぶとく生き残っており、いろいろな可能性を秘めていることを当時彼が在籍していた、弘前大学周辺の津軽地域の集落調査などを通じて、実証的に限界集落の課題と可能性について論じており、大いに蒙を啓かれた。
その後、山下は東京都立大学に移ったが、津軽地域とのつながりを持っており、津軽に関する調査も実施して成果をあげている。一方で都立大に移ってからはホームグランドの八王子や多摩ニュータウンなどの調査も手がけると同時に、全国的な地域問題に積極的に発言、活動している。東日本大震災の被災地域の地域復興にも精力的に取り組んでいる注目される社会学者だ。
岩波ジュニア新書は若い世代向けの書籍で、想定読者は中学生、高校生から、大学1,2年生くらいであろうが、このシリーズの本は一般の成人が読んでも参考になる、読み応えのある本が多い。むしろジュニア新書であるからといって、執筆者も手を抜くのではなく、なるべく専門的な知見をわかりやすく伝えることに工夫を払っているといえる。一般読者にもわかりやすく、理解しやすい叙述を心がけており、その点ありがたい。
本書は地域学という、学問がなにを目指しているのかをわかりやすく解説し、地域に興味を持っていろいろな調査を行うことを勧める書といえる。
山下の地元の八王子を取り上げ、多摩ニュータウンが開発され、都立大学が開設される過程を踏まえつつ、この地域にどういう人々が住み、どういう生活、生業を営んできたのか、それがどう変容してきたかを読み解くことから地域をどう捉えるかを説き起こしている。
地域はどういう空間構造、層からなり立っているのか、国と地域の関係、地域が統治の空間であると同時に自治の空間であることが説かれている。
江戸時代の村々の特色などを具体的な地域を取り上げながら地域学についてのイメージを明らかにしている。本書では山下が長年関わってきた、津軽地域や山形県を取り上げ、その地域の歴史、発展、変容を解き明かしている。水系と地域、鉄道と地域、道路と地域など多面的に地域を捉えることが可能であり、その中で、新たな発見、示唆が導かれることを論じている。果たして、これを読み切れる若い読者はどれほどいるのかと思うほど、結構中味の濃い本だ。
『地域学をはじめよう』が高校生向けの岩波ジュニア新書だったのに比べて、『地域学入門』は大学生向けの入門書といえよう。本書は山下が大学で学生向けに行った、地域学についての講義をベースにしている。ただし、「地域学をはじめよう」のほうが、素人にもわかりやすい、興味深いエピソードが多くて、面白く読めたが、こちらはすこし固めのいささか、学術的な装いがあり、面白みに欠けるし、これで、地域学に興味をかきたてられるかといえば、ちょっと疑問な点もある。
本書は、生命の章、社会の章、歴史と文化の章、変容の章の4つの章からなっており、彼がフィールドとしている津軽地域の事例、文化、歴史が語られており、その点では地域学を具体的にイメージできる工夫がなされている。
地域を固定的に捉えるのではないこと、国との関係、都市、村の特性と地域特性などを語っておりこの点は興味深かった。
都市計画も具体の場所、空間を対象に様々な調査分析をおこないつつ、都市や地域の改善提案、計画づくりに関わることが多く、その点でこの山下の書は有用な参考書だ。