都市プランナーの雑読記-その76/斎藤幸平『ぼくはウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた』

都市プランナーの雑読記 その76

斎藤幸平『ぼくはウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた』KADOKAWA、2022.11

2024年4月12日
大  村 謙二郎

『人新世の資本論』で一躍有名になった、脱成長を掲げる思想家、マルクス研究者斎藤幸平さんの本です。毎日新聞に2年間にわたり連載していた記事を加筆修正、さらに書き下ろしをつけ加えて一書にしたものです。
 話題の人、若手学者が書斎を抜け出して、現場に入り、いろいろ体験をしながら思索するといった企画の本です。ちょっと、流行り物的かなと思ったのですが、中味は斎藤さんの素直な反省や、思いが込められており、教条的なリベラル左翼の主張とは異なる本となっています。文章は新聞に掲載されたように平明で、分かり易いし、率直な物言いは理解がしやすいです。
 全体で3章構成となっています。
第1章は、「社会の変化や違和感に向き合う」と題して、斎藤が現代のアクチュアルな課題に向き合うために現場を訪れ、その体験記録と感慨、考察を記している。以下がその内容です。
・ウーバーイーツで配達してみた:自由と、自己責任と
・どうなのテレワーク:見直せ、大切な「無駄」
・京大タテカン文化考:表現の自由の原体験
・メガヒット、あつ森をやってみた:平等で公正な社会の幻
・5人で林業 ワーカーズコープに学ぶ:「よい仕事」を自ら提案
・五輪の陰: 成長へひた走る暴力性
・男性メイクを考える:「自分らしさ」の道具にも
・何をどう伝える?:子どもの性教育 相手を尊重する心が大切

第2章は「気候変動の地球で」という大きなテーマで以下のトピックです。
・電力を考える:1人の力が大きな波に
・世界を救う?:昆虫食 価値観の壁を越えれば
・未来の「切り札?」:培養肉 食のかたちをどう変えるか
・若者が起業 ジビエ業の現場:日本の食を正視する
・エコファッションを考える:「捨てない」道の可能性
・レッツ!脱プラ生活:不便と向き合う体験
・「気候不正義」に異議 若者のスト:おかしなことには声を上げる

第3章は「偏見を見直し公正な社会へ」がテーマで以下のトピックとなっています。
・差別にあえぐ外国人労働者たち:自分事として
・ミャンマーのためにできること:知ることが第一歩
・釜ヶ崎で考える野宿者への差別:内なる偏見に目を
・今も進行形、水俣病問題:誰もが当事者
・水平社創立100年:若い世代は今
・石巻で考える持続可能な復興:消費とは別の価値観の上に
・福島・いわきで自分を見つめる:「共事者」として
・特別会 アイヌの今:感情に言葉を

 斎藤さんと新聞社の記者がトピックの選定などで協議したのだろうと思います、いずれもアクチュアルな課題でいろいろ考えさせられます。

 最後のあとがきに、斎藤さんは「学び、変わる 未来のために」と題して、2年間の連載執筆と本書を刊行するに際しての思い、考えを伝えています。思考者、研究者が書斎、研究室を離れて現場に行くことの意味と限界、当事者でないことの痛みとそれをどう乗り越えていくかなどについて、率直に語っており、共感を覚えます。若い世代の発言として、妬んだり、軽信したりすることなく、率直にその考えを咀嚼し、それでもこちらが感じる違和感を突き詰めていくことが必要と感じました。若い世代の行動、思考、感性に多く学ばされます。