都市プランナーの雑読記 その75
渡辺京二『近代の呪い』平凡社新書、2013.10
2024年3月27日
大 村 謙二郎
2022年12月、92歳で亡くなった渡辺京二の新書です。ずいぶん前に購入しましたが、放置したままでした。亡くなったことを知り読みました。
この人の作品を知ったのは『逝きし世の面影』がはじめてです。江戸期の近世日本に訪れた外国人などの書き残したものを丹念に読み込んで、当時の庶民の生活ぶりを活写した作品で評判になったもので、感銘して読みました。その後、読んだ大作としては『黒船前夜』でこれは、幕末期のロシアと日本を巡る関係を読み解いたもので大佛次郎賞を受賞した作品です。これも知られなかった、資料、史料を発掘して幕末期日本の別の側面、北海道=蝦夷を巡る社会の状況を描き、印象深かった記憶があります。
本書は渡辺京二が2010年7月から2011年10月にかけて行った3つの講演と、大佛次郎賞を受賞した記念講演をあわせたもの計4話と付けたりという構成になっています。
主題は近代化とは何か、近代が達成したものとそれがもたらした呪いとは何かという問いかけです。渡辺は近代がもたらした問題、難題を批判的に論じながらも近代が達成した偉大な成果である衣食住の向上の実現を無下に否定するものではないことを丁寧に説明しています。
第1話の近代と国民国家の話しでは、近代によって消えた自立的民衆世界と成立した国民国家をどう考えるかについて論じています。反国家主義の不可能性を指摘しています。
西洋化としての近代についての第2話では、近代化=西洋化への図式への批判論を取り上げ、それが無理なこと、近代が達成したことともたらした課題をどう解決するかという話しを説いています。
第3話はフランス革命再考についてです。フランス革命によって、本当に近代の幕は上がったのか、ジェノサイド的な種がこの革命の過程で生まれたのではという話しを説いてます。渡辺は昔共産党に属していたことなど、左翼経験があり、いまでも心情的には左翼にシンパシーを持っているところもあるのかも知れませんが、それにしても、革命の過程で生まれる人間性を無視した恐怖政治の弊害を鋭く説いています。最近はフランス革命のもたらした問題、暗部を明らかにした論説がありますが、この書もフランス革命の功罪を具体的に説いています。
第4話は本書の表題とつながる、近代のふたつの呪いについてです。インターステートシステムが確立したことで、国単位で経済競争、市場化が加速され、世界の人工化に拍車がかかっているのが一つの呪いです。科学、科学技術がもたらした人間中心主義が人間の存在基盤である、地球、生態系を壊すことの近代の呪いが二つ目です。
「つけたり」の話しは、大佛次郎のふたつの魂と題して、大佛の作品、ドレフェス事件、ブゥランジェ将軍の悲劇、パナマ事件、パリコミューンなどを取り上げ、大佛の進歩主義、合理主義の側面と伝統保守主義、愛国主義の二側面について、語っています。大佛と渡辺の考えが重なってくるように読めました。
いずれも、学生向け、市民向けの講義を書き起こしたもので分かり易い語り口ですが、考えるヒントが多くある本です。近代というものをどう考えたら良いのか、近代化は達成されたものではないし、いろいろ克服する課題も多い、途上の概念だなとの思いを強くします。