顧問大村謙二郎「都市プランナーの雑読記その50/大月敏雄『集合住宅の時間』」

都市プランナーの雑読記その50

大月敏雄『集合住宅の時間』王国社、2006.10

2022年9月15日
大 村 謙 二 郎

 大月さんは建築計画、住宅地計画が専門で、現在第一線で活躍中の方。昔、学会の委員会等でちょっとだけおつきあいしたこともあります。あるシンポジウムで首都圏50キロ圏の遠郊外住宅地の行く末について、鋭い指摘をされていましたが、強く印象に残っています。
 この本は大分前に買っておいたのですが積ん読状態でした。日本の場合、時間がたつと建築物の価値がどんどん減価していくというのが普通の状態ですが、大月さんはこれに対して大いなる違和感をお持ちです。
 ヨーロッパなどでは集合住宅が100年を超えているはめずらしくありません。数年前、ベルリンの世界文化遺産に指定されている集合住宅を見学しましたがこれは1920年代に建設された、歴史の浅い近代建築との評価で、とりわけ古びているとの印象はなく、むしろ、現役バリバリで活用されています。経済価値、市場価値とは別の論理で、ストックを大事に息長く使っていくことが常識になっているのだと思います。1920年代の近代建築が世界遺産の対象になる時代に入っているのだと感慨深かったです。
 大月さんはベルリンの集合住宅団地と同時期に建設されたが、いまは現存しない同潤会アパートを中心とした住宅の実測調査、聞き取り調査をやってきた人です。その経験に裏打ちされた形で、集合住宅の故事来歴、居住者の思いなど、時間が紡ぎ出してきた建物の物語を読み取る形で、24の集合住宅を取り上げて、それぞれの住宅建設の経緯、住宅地の魅力、特色を語っています。多少は知っている建物もありましたが、こういった来歴、居住者の思いがあったのだと言うことをあらためて知ることが出来ました。
 大月さんの建物、建物にかかわった人々へのあたたかいまなざしが感じられる好著です。こういう本を読むと、知力、体力の衰えたものでも違う形でいろいろな形で活動、貢献できる社会が求められているのが超高齢社会のあり方かなと勝手に妄想してしまいます。