都市プランナーの雑読記-その33
村上春樹『職業としての小説家』新潮文庫、2016.10
2021年8月26日
大 村 謙 二 郎
2015年に刊行された単行本の文庫版です。
村上春樹の熱心な読者ではありませんし、短編集は少しパラパラ読んでいたのですが、長編について読み出したのは2000年代にはいって以降です。
デビュー以来、コンスタントに長編、短編・中編を基本的に書き下ろしの形で書いてきている、持続的な作家活動に対して素直に評価したいと思います。
また、彼の作品が世界各国、多分50以上の言語に翻訳されて、多くの読者の共感を得ているのは、彼の作品が世界的な汎通性を有していることの証なのでしょう。
ほぼ同世代の作家であり、しかも、高校が同じ神戸の高校であったことや、彼の描く時代、人物関係が私の日常的な感覚や、その当時の環境と似ているように感じることもあり、懐かしさ、親しさを覚える描写が多々あると感じます。この点は、世界の村上読者が自分のことを書いているのだと感じる感覚に通じるものがあるのだと思います。
あとがきによると、村上春樹がこの文章を書き出したのは2010年頃からで、自分が小説を書くこと、小説を書き続けている状況について、まとめて書いておこうという気持ちがわき、別に出版社から依頼されたわけでなく、仕事の合間を縫って、書きためていたそうです。
どこまで韜晦の部分が入ってるのかわかりませんが、割合と素直に自分がどのように小説家として修業してきたのか、心がけてきたこと、考えてきたことは何かなどについて全12回に分けて書いています。
彼の個人的思い出、エピソードも交えて書かれており、面白く読めました。それにしても、彼は普通の平凡な人間と謙遜していますが、そのこだわり、持続力、ストイックな生活態度など、到底並の人が続けられるものではありません。
彼が、自分の作品に対する批評、批判に神経質というか、拒否感を持っている経緯もなんとなくわかりました。その意味では相当プライドが高く、他と比較されることがいやな人なのかなと思います。自分のスタイル、価値観、趣味を大事にする独創的な作家だと思います。
村上春樹の文庫本には通常ある、文藝評論家などの解説はないのは、彼がそれを忌避しているからなのだろうと理解できました。