弁護士小澤英明「夢について」

夢について (2025年9月)

2025年9月8日
小 澤 英 明

 私は夢を覚えているたちで、特に目覚めたすぐはかなり鮮明にどういう夢だったか覚えている。人によっては夢など見ないと言う人もいるが、その正反対である。したがって、人の2倍生きている、と思うこともある。人によっては、夢は白黒とか、驚くべきことを話す人もいるが、私の夢は総天然色であり、夢の中の光景の美しさにみとれることもある。夢の時間というものは不思議なもので、30分のうたた寝の夢の中で、数時間もの時間を過ごすことがある。
 夢の中身はいろいろで、一番嫌な夢はトイレをさがしまくる夢で、トイレにたどり着くけれど、汚すぎてとても入る気がしないトイレばかりというもの。人生の中で一番嫌だったトイレは、鹿児島ラ・サール中学三年生のときの臨時の寮のトイレで、ちょうど寮の拡張時期だった。古い校舎の一角が寝室、自習室に臨時に改造されていたときのトイレ。その校舎のトイレが汚いの何の、掃除は頻繁にされていたと思うが、古ぼけた木造のトイレで、先輩たちの落書きがひどい。私は奥手で落書きの絵や文字も記号のようで意味がわからないものが多かった。その後、2年間の寮の拡張工事を経て、高2の春、晴れて新築のきれいな個室の高校寮に入ることができた。天と地の違いであった。その中学三年生の時のトイレがトラウマで、夢の中で出てくる。
 悩まされる夢として、多くの人はテストの準備ができていなくて、というのがあるが、私の場合は、大学生活を過ごしていながら、なぜか、もう一度大学の入学試験を受けなければならないという夢が時々ある。もう一度受けろと言われても理科とか社会とかすっかり忘れていて、今から2月頃までにもう一度やるには時間が足りない、なんて思ったりする。確実に落ちる。しかし、なぜ、もう一度入学試験を受けなればならないのか、などと思ううちに、目が覚める。夢の中で、この手の二度目の試験シリーズが本当に馬鹿らしい。頻度は少ないが、もう一度司法試験を受けなければならない夢も見る。こちらは、弁護士として水準は保っているかという自己反省からは意味があるので、よけいたちが悪いとも言える。
 もちろん、嫌な夢ばかりではない。良い夢も多い。良い夢というのは、例えば、美しい優しい女の人が出てくる夢である。実在の人とは限らないのが不思議である。先日の夢は、なかなか良い夢だった。・・・私が鹿児島ラ・サールの同窓会に出るために鹿児島に行って、駅から同窓会の会場に向かう途中で道に迷った。ちょうど分かれ道でウロウロしていたら、美しい女の人が近づいて来た。「どうされました?」「高校の同窓会の会場に行くのに迷って。」「ラ・サールの?」「そうなんです。」「ちょうど私も行くところですので、一緒に行きましょう。」道すがら話を聞くと、そのご主人は、鹿児島ラ・サールの私よりずっと後輩にあたるとのことだった。・・・そんないい夢あるわけないと言われそうだが、嘘ではないんだよね。こういう夢も見ることがある。
 30代の半ばの頃(1992年)、ロンドンのリンクレーターズ(Linklaters) 法律事務所に1か月お世話になったことがある。不動産部門のパートナー弁護士の先生の部屋の一角に机をいただいて、ロンドンの法律事務所の弁護士の仕事ぶりを間近に見させていただいた。その先生が、手の中に入る小さなテープレコーダーに何やら長いこと吹き込んで、部屋から出る際に、部屋の外の秘書にそれを渡していたのを何度か目撃したことがある。若手の弁護士にあれは何をやっておられるんだろうと聞いたら、文書の中身を録音して渡しているんだよと聞いて、当時、かなり驚いたことがある。秘書がテープを聞きながらタイプを打って文書に仕上げていたわけである。リンクレーターズには所員食堂があり、デザートが美味しかった。また、リンクレーターズの先生方にはクリケットの試合を夕方から見に連れて行ってもらったこともある。そんな楽しい日々の、ある休日、キューガーデン(Kew Gardens: 王立植物園)に一人で行ったことがある。バラが好きだったのである。1日楽しんで、帰りがけに駅のホームで路線図を眺めていたとき、白髪のご老人(男性)に声をかけられた。May I help you? 突然で驚いたが、それまでもイギリス人は好きだったけれど、一段と好きになった。このときの思い出が今回の良い夢の下敷きになっていたのかもしれない。あんなにさりげなく行きずりの人に親切にできたらいいな。

ロンドンのキューガーデン