弁護士小澤英明「ヘンリー・パーセルのこと」

ヘンリー・パーセルのこと(2023年4月)

2023年4月28日
小 澤 英 明

 この2か月ほど、頻繁に聴いているのは、イギリスの作曲家ヘンリー・パーセル(1659-1695)のグラウンドという曲。このグラウンドというのが一体、どういう意味なのか、ネット検索しても、今ひとつ、よくわからないのだが、ピアノやチェンバロで、又はギターやリュートで弾かれる。この曲には、You Tube がなかったら、出会わなかったかもしれない。バッハ、ヘンデルという1685年生まれの二人の大作曲家に目がくらんで、それ以前の作曲家の名曲までなかなかたどりつかないのだが、バロック時代の作曲家に名曲が無数にあるということを気づかせてくれるので、You Tube はありがたい。
 ヘンリー・パーセルについては、イギリスの偉大なバロック時代の作曲家というくらいの認識はあった。イギリス贔屓の私だが、音楽だけは、ドイツ、イタリア、フランスなどと比べると、落ちるよね、と思っていたので、ヘンリー・パーセルにはいろいろと名曲がありそうだと知って素直にうれしい。ヘンリー・パーセルのグラウンドという種類の曲も相当数ありそうで、You Tube からだけでもかなり知ることができる。You Tubeの良さは、まさに自宅で弾いているようなラフな格好で登場する演奏家にも出会えるところである。ヘンリー・パーセルのグラウンドの演奏では、イタリアの集合住宅の一室と思われる窓辺の部屋にチェンバロを置いて、演奏開始の際に、カメラにむかって、にこっと笑って演奏を始めてくれるお姉さんの映像(写真参照)が一番好きで、癒される。窓辺には、小さな植木鉢が並んで、中にはもう花が枯れてしまっているのもある。
 チェンバロと言うと、若いころのことを思い出す。20代の終わりころ、ドメニコ・スカルラッティ(イタリアの作曲家で、バッハやヘンデルと同じ1685年生まれ)の鍵盤曲が好きで、ホロヴィッツ演奏のスカルラッティのLP盤(ピアノ演奏)を宝物のように大事にしていたことがある。これは、吉田秀和がスカルラッティを好んでいて、その影響があったことは否定できないが、地中海の夏を思わせる明るい曲想のものが多く、魅了された。当時、今から40年ほど前のことだが、スカルラッティのレコードは乏しく、ホロヴィッツの名盤以外は、わずかにチェンバロのランドフスカ(1879-1959)のLP盤くらいが手に入りやすいレコードだった。しかし、それは録音がきっと古かったのだろう、チェンバロの音質がとても悪く、幻滅したことだった。今では、You Tubeで、すばらしいチェンバロの音をいくらでも楽しめる。窓辺でヘンリー・パーセルのグラウンドを弾いてくれる女性のチェンバロの音もいい。時代が大きく変わった。
 ヘンリー・パーセルの曲では、昔から好きだった曲に、WHEN  I  AM LAID IN EARTH (私が土の下に横たわるとき)という、オペラ「ディドとエネアス」の中のアリアがある。これは、一度聴いたら、忘れられない名曲である。You Tube で数多くの歌い手の映像が流れる。その中で、よく聴くのは、Annie Lennoxの歌唱である。子供が見たらきっと、怖くて、近寄りがたい女性に見えるだろうが、この曲の歌唱としては最上のものだと思う。