顧問大村謙二郎 「都市プランナーの雑読記-その47/岩井克人『経済学の宇宙』」

都市プランナーの雑読記-その47

岩井克人(聞き手=前田裕之)『経済学の宇宙』日本経済新聞社、2015.04

2022年7月5日
大 村 謙 二 郎

 ちゃんと、深く理解できたかどうかわかりませんが、興味深く読みました。
 岩井さんは私とほぼ同年代の国際的にも著名で、活躍している経済学者ですが、並の経済学者ではない幅広い教養、学識で経済学をラディカルに探究している人です。
 その岩井さんの教え子で、日経記者の前田裕之氏が聞き手となってとりまとめたインタビュー原稿をさらに岩井さんが徹底的に手を入れて完成させたのがこの本です。岩井さんの生い立ちから、時系列で岩井経済学がどう進化・深化してきたのかが展開されています。面白かったのは彼が生まれたのが、代官山の同潤会アパートで、小さい頃は図鑑に夢中で思考の原点に図鑑的な見方があるとのことでした。
 若くしてMITに留学し、輝かしい成果を出し、学者人生の頂点に立ったけど、それからは没落の一途だったと述懐されていますが、そのごの研究者人生も素晴らしい業績の連続であり、十分実りあるものだと思うのですが。ただ、岩井さんによれば、英語で続々と論文を生産している世界的な(?)な学者とは違う道を歩んだとのことです。学会には入らず、政府の審議会なども敬遠されていたとか。
 それでも自分で徹底的に考え抜いた資本主義の本質、貨幣や会社の本質などについて独創的な考えをまとめ、それを英語で発表され、国際的な場で議論されているのですから、いささか謙遜しすぎだと思うのですが。
 彼の専門的な論文は読んだこともないし、また、読む能力、気力もありませんが、それでも一般向けに書かれた「ヴェニスの商人の資本論」「貨幣論」「会社はこれからどうなるのか」など、大変面白く読んできたので、今回の岩井さんのいままでの経済学研究の歩みを振り返ったこの本は大変示唆的で面白かったです。
 それにしても彼の経済学をより広い文脈、枠組みで根源的に考究する姿勢には敬服します。法学、社会学、歴史学や人文諸学、芸術、映画へと岩井さんは必要と興味に応じてどんどん越境していきます。
 この書では著名な経済学者、文化人、芸術家との交流も描かれており、それも興味深い点です。