土地評価の均衡化・適正化
2020年12月10日
鷺 坂 長 美
土地に係る固定資産税について、来年度の税制改正で地価上昇が見込まれる土地でもその税額が据え置かれる、といった記事がありました。その記事から思いだすのは固定資産税の土地の評価を地価公示価格の7割を目指して評価替えを行うことになった1992年から93年にかけての税制改正です。旧自治省の税務局の課長補佐としてその改正に関わりました。
1990年ごろはバブル景気真っ盛りのころでした。土地の値段が高騰してサラリーマンが一生真面目に働いても都市周辺部に一戸建て住宅は持てない、といわれていました。世の中のお金が不動産投資に集中しすぎている、金融についても土地担保に偏りすぎている、ということを耳にしましたが、土地の保有に係る税金が低すぎるのが地価高騰の原因ではないか、ともいわれていました。土地基本法が成立したのもそのころです。土地基本法の第5条に「土地の価値が・・・社会的経済的条件の変化により増加する場合には・・・その価値の増加に伴う利益に応じて適切な負担が求められるものとする」という規定がもりこまれました。
当時、固定資産税の宅地評価は公示価格とは別途評価していました。公示価格との関係でいえば全国でばらつきがあり、特に都市部では大変低い状況でした。2割ぐらいのところもあったのでは、と思います。土地売買は投機目的で正常な価格になっていないとか、公示価格は売買のあった土地の評価で1億数千万筆の土地に課税する固定資産税の評価とは同列には論じられないとか、土地を売って税金を払うことは想定していない、などと説明していました。しかし、地方税法の規定では「価格」とは「適正な時価」とされていましたし、土地基本法第17条でも「適正な地価形成及び課税の適正化に資するため、土地の正常な価格を公示するとともに、公的土地評価について相互の均衡と適正化が図られるように努める」とされ、公示価格との均衡は免れえない状況でした。
一方で国税の動きもありました。固定資産税は市町村税で、市町村で評価するのでその均衡化は困難とし、新しい土地保有税を国税で創設しては、という動きが出てきました。1991年の政府税制調査会や与党自民党の税制調査会では大議論になります。産業界はもちろん反対ですが、地方団体関係者もこれでは固定資産税の根幹にかかわるということで反対を表明し、大混乱になりました。最終的には紆余曲折があり地価税という新税が創設されることになりましたが、固定資産税のような物に着目したいわゆる物税ではなく土地の所有者に着目した人税であると整理し、大幅な基礎控除を認め、さらに居住用土地を非課税とするなどの措置も講じられることになりました。後日談ですが、地価税は地価が下がったこともあり1998年で課税停止となっています。
1994年が評価替えの年です。公示価格と均衡を図るために評価方法を大幅に変更しなければなりませんので準備が必要です。相続税で8割をめどとし、固定資産税では7割をめどとしていますが、相続税は売り急ぎによる影響を、固定資産税は公示価格に含まれる将来の期待値を除くと説明されていたと思います。評価替えにより土地の評価額が上がれば税負担に反映されます。土地の所有者にとっては大幅に税負担が増えることは納得がいきません。1991年の時は、与党自民党でもまたマスコミでも、経済学者の論調も土地に係る税負担が低すぎる、という議論でしたが、いざ固定資産税の土地評価を上げようという段になると反対の大合唱です。これは、土地関連融資の総量規制や金融引き締めにより既にバブルといわれた景気が後退しはじめていたことによるものかもしれません。いずれにしても評価替えを達成するには税負担の調整が必要です。住宅用地については大幅な特例(小規模は6分の1)を設けるとともに、前年度からの税額の上昇割合に応じて税額の伸びを一定程度までにするという調整措置の拡大も行われました。1993年税制改正でのことです。毎年、市役所から送られてくる固定資産税の明細書を見るにつけ、複雑な計算式が書かれています。納める税金の額は個人でも簡単に計算できるほうが望ましいのですが、当時のことを思いだしては複雑な境地です。