ブラームスを好きになったとき(2020年11月)
2020年11月2日
小 澤 英 明
当事務所顧問の鷺坂君から、「小澤は大学の頃、ブラームスがいいとよく言っていた」と言われることがある。多分大学に入った春だと思う。実家のある佐世保市のレコード店でブラームスの交響曲全集を買った。高校生の頃からクラシック音楽を少しずつ聴いていたが、ブラームスを聴くまでは、クラシック音楽に熱中していたわけではなかった。それまでは、いわゆるクラシックの名曲を人並みに聴いていたにすぎない。しかし、ブラームスくらい聴かなきゃなと見栄を張って、聴いたこともないブラームスの交響曲の全集を買って、それから熱中することになった。
私は、ラ・サール中学1年から高校2年までずっと学園の寮に入っていたのだが(高校3年の寮はなく、下宿だった)、中学1年に入ったときは、中1から中3まで全体で100人の中寮に入った。中寮には、大きな自習室と大きな寝室があり、食事は高校の寮生も一緒の食堂だった。自習室に100の机が並べられ、寝室には50の二段ベッドが並んでいた。この中寮の思い出は強烈であり、今でもその光景をよく覚えている。同級生の一人のW君がクラシック通で、まだ当時は(1970年頃)お坊ちゃま君しかもっていなかったカセットテープレコーダーで、実家で録音したというバッハの音楽をベッド(W君は陽の当たる窓際の下段のベッドだった)の上で聴いて悦に入っていたのである。バッハのブランデンブルグ協奏曲の6番がいいと言っていた。これは、かなり渋い曲で、私がわかるわけもなかった。私は、音楽の授業で聴かされたベートーベンの「田園」など聴いていい曲だなあと思っていたくらいだから、断然出遅れていたわけである。
というわけで、何かと奥手であった私は、高校の終わりまではブラームスを多分聴いていない。購入したブラームス交響曲全集は思い切って買った記憶がある。当時レコードは高かったので、買い損じはできない。ブルーノ・ワルタ-とカール・ベームという大御所二人が2曲ずつ入れていた(ブラームスの交響曲は4番まで)。著名な指揮者二人だから、間違いないと思って買ったのだが、期待してレコードを聴き始めても、わからない。繰り返し聴いてもわからない。「田園」のようにすっと頭に入らない。あれっ、クラシック音楽は自分にはわからないんじゃないか、と思った。しかし、何度か集中して聴いているうちに、曲のいいところが少しずつ頭に入ってきたのである。これは、人生の中で、私にとっては非常に大きなできごとで、難しそうな曲も繰り返し集中して聴けば良さがわかることがわかった。
最初に好きになったのは交響曲第3番の第3楽章である。多くのブラームスファンが好きなのは第2番と第4番のようで、私のように第1番と第3番が好きなのはどうなんだろうと思った記憶もあるが、そういうことはもうどうでもよくて、ブラームスがわかったということが嬉しすぎて、親友の鷺坂君にも繰り返しブラームスの話をしたのだろう。第3番の第3楽章は、フランソワーズ・サガン原作の「ブラームスはお好き」が映画化されたときに使われたということを後で知った。
秋の夜長にブラームスをどうぞ。