鷺坂長美「ドクターヘリ」

ドクターヘリ

2023年7月26日
鷺 坂 長 美

 今年の4月からNPO法人救急ヘリ病院ネットワーク(HEM-Net:Helicopter Emergency Medical Service Network)の理事長に就任しています。この法人は、私が消防庁の救急救助課長時代(1999年~2001年)に設立された法人で、ドクターヘリの普及を目的にしています。当時、交通事故による死者数が毎年1万人を超えていましたが(令和4年では2610人)、ドクターヘリがあれば、事故の被害者に対して、早期に医療介入し、病院へ搬送でき、死者数を大幅に減らせるのでは、ということで、その普及が救急医療関係者の間で切望されていた時代です。救急事案に関しては消防とかかわりもあり、そうしたご縁もあってか、数年前から理事をさせていただいていました。
 当時からドクターヘリの有用性は先進国等ではすでに明らかとなっていました。特にドイツではADAC(ドイツ自動車連盟)が中心となってドクターヘリを全国の拠点病院に配置し、どこで事故が発生しようと15分以内にドクターの搭乗するヘリが駆け付け、現場で応急措置を行ったうえで被害者を病院へ搬送する、ということが行われていました。救急救助課長の時にミュンヘンに視察にいったことがありました。説明を受けているときに救急コールが鳴り、ドクターとナースにパイロットがものの1分足らずの間にヘリに搭乗して離陸する瞬間に立ち会いました。数十キロ離れた牧場での落馬事故だったようですが、救急車主体の日本の救急業務との格差に愕然としたものでした。
 ドクターヘリは、厚生省の試行事業が1999年からはじめられ、2001年から本格運用が開始されています。岡山県の川崎医科大学病院ではじまりました。当初はなかなか普及せず数か所にとどまっていましたが、ドクターヘリ特別措置法の制定(2007年)、ドクターヘリ運航経費の交付税措置(2009年)等の制度充実に加え、2008年からのフジテレビ「コードブルー・・ドクターヘリ救急救命」(山下智久さん、新垣結衣さん主演)の放映がはじまると、その認知度も一気に高まり、ドクターヘリは急速に普及していきました。2013年には航空法施行規則が改正され、災害時には警察や消防のヘリ同様、自由に離着陸ができるようになりました。昨年4月に香川県ドクターヘリが運航され、すべての都道府県(関西広域連合で運航している京都府を含む)でドクターヘリの運用が行われています。一都道府県で複数機を運用しているところもあることから全国で56機のドクターヘリが運航しています。
 昨年、HEM-Net では、ドクターヘリの全国展開が成就したことから記念シンポジウムを開催しました。今後は、ドクターヘリの質的な向上を目指して活動することとしています。ドクターヘリの運用をどこでも一定以上の水準のものとすること等です。ドクターヘリの事業主体が都道府県であることから県境における各都道府県の連携の課題やドクターへりの基地病院の位置によっては、カバーされているとは言えない地域への対応等の課題もあります。

(HEM-Netホームページより作成)