YouTube とクラシック音楽(2022年1月)
2022年1月7日
小 澤 英 明
昨年夏、YouTube をテレビの大画面で楽しむためにテレビを購入したら、毎日、2,3時間もこれで時間をつぶすことになった。YouTube では、クラシック音楽とサッカーを楽しみたかったが、サッカーの方は、無料のYouTube ではお楽しみにも限界があり、有料のスポーツチャンネルの会員になるしかない気がしている。日韓ワールドカップのロナウジーニョのフリーキックの神技(イングランドのゴールキーパーを慌てさせ、その頭上を越えてゴールにやすやすと入ってしまったあのひと蹴り)をもう一度見たいと思ったりして、それはそれですぐに見られたが、さすがにそういうものばかりでは飽きがきた。やはり、ライブの試合でないと楽しめない。というわけで、サッカーの方は早々に退散し、今や、クラシック音楽だけをYouTube で楽しんでいる。
YouTube に積極的に演奏をアップしている演奏家は限定的だと思うが、すばらしい演奏家も少なくない。ヴァイオリニストのヒラリー・ハーンはその代表である。もっともヒラリー・ハーンのYouTube 演奏は、既に織り込み済みだったので、ありがたみも中くらいなのだが、知らなかった演奏家ですごい人を見つけると、何とありがたいことよと、誰に感謝してもいいかわからないが、文明の利器が人々の生活の質を高めている今に生きる幸せを感じる。自分が本当にほしい物も無料で手に入ることがある。私はもっぱらクラシック音楽専門だが、新婚で、親から料理など教えてもらったことがない人でも、YouTubeさえ見れば、高難度の料理も訳なく作れるだろう。とんでもない時代に突入したものである。
YouTube のクラシック音楽の良さは、映像がすばらしいからで、特にオーケストラのメンバーの一人一人の顔の動きまで詳細に把握できるのはすごい。応援したい人が生まれる。最近、感心しているのは、フランクフルト放送交響楽団のYouTubeで、これは、多分、同楽団のポリシーとして、全部出してしまえ、みたいな方針がありそうで、次から次に、演奏会の様子をアップしている。カメラワークもすばらしい。その方針によってこの楽団にどれだけの収入があるのかはわからないが、この楽団を昨年夏まで私は知らなかったのだから、大きな意味があるのではないか。私がドイツに住んでいたら、きっとこの楽団の演奏会に通うようになったと思う。ドイツだけでなく、周辺のEU諸国のクラシック音楽愛好家をも引きつけているはずであり、宣伝効果は絶大である。こうなると、CDやDVDなどが売れなくなるのも当然であり、市場荒らしとして業界では嫌われていないかと、心配にもなる。
昨年12月の1か月で、私がもっとも多く再生したのは、多分、この楽団のチャイコフスキー交響曲第4番の第2楽章(カルロス・ミゲル・プリエト指揮のもの)。非常に音が美しく、指揮者の力量も感じさせる。ある時、この楽章の冒頭のもの悲し気なオーボエの旋律が私をつかまえた。この旋律はかつてどこかで聞いていたように思えて、すごく懐かしい気がした。オーボエのあとをチェロやヴァイオリンが続いて、ファゴット、クラリネットが次々に主題を引受け、フルートが脇役ながら活躍する。写真は、その演奏のワンシーン。フルーティストはクララ・アンドラーダ・デ・ラ・カレ、この楽団の首席フルート奏者である。