「鯉」弁護士小澤英明

鯉(2019年6月)

2019年6月26日
小 澤 英 明

 練馬の家には池があり、鯉もいる。元の持主から引渡しを受けたとき、鯉は1匹だけだったが、すぐに死なせてしまった。約6年前のことである。池の水は井戸から引いてあって、井戸は元の持主が新築時に掘られたものだった。その井戸水は、飲み水にも使えると水質検査の紙もいただいた。ただし、私に鯉の知識がなく、多分、水の中の酸素不足で死なせたのだと思う。そこで、鯉の勉強をした。池も水を抜いてすみずみまで磨いて、新たに鯉を買った。紅白、大正、昭和、銀鱗紅白、銀鱗昭和、プラチナ、黄金、白写りを購入した。すべて鯉の種類である。2才ものばかり、10㎝や20㎝クラスのものばかり、1匹2000円から3000円で池袋の東武デパートで買った。私の家を訪ねてきた妻の伯母(思ったことをそのまま口に出すいい人だった)が、ここの鯉は小さいねと言っていたことを思い出す。
 庭の中で、植物の世話は私の担当だが、鯉の世話は妻の担当と自然に役割分担ができた。最初、妻と娘が名前をつけたので、プラチナはプー、黄金はキー、大正はマル(頭に赤い丸い模様あり)、白写りはクー(頭の黒い模様がひらがなの「く」に似ている)とか、名前がいずれも野暮ったい。その後は、私が、ココ、ミミ、リン、ラン、ロンとか、おしゃれに名付けた。銀鱗紅白や銀鱗昭和が綺麗なだけに弱く、早く死んだが、ほかは順調に育った。途中で浅黄(これも鯉の種類)2匹を加えて13匹になった。池には井戸水を流しており、年中、水の温度は14度から18度くらいで、冬は暖かいが、夏は冷たい。そのため、私のところの鯉は、冬眠をせずに冬も動き回るが、水温が高くならないので、産卵しない。
 妻の毎日の池掃除のおかげか、鯉たちはずっと元気に育ったが、昨年春、キーが突然水面に浮かんで動かなくなった。これは、一番食欲があって、パンパンに太っていたのだが、人間で言えば、私も他人ごとではない、完全な成人病体型。太りすぎだと笑っていたのだが、笑っていられない状態になった。すぐに大量の塩をおなかのあたりに撒いて、棒でつついたところ、奇跡的に動き出した。しかし、結局、2日後には絶命した。鯉が最初に死んだとき、家人が役所に電話したら、ビニールの袋に入れて普通のごみとして出してくださいと言われた。役所の職員もこんな質問には答えながらイラッときたかもしれない。ただ、さすがにゴミにはできないので、死んだ鯉は庭に埋めている。
 キーがいなくなって、妻がキーの代わりがほしいね、と時々言うようになった。そこで、昨年夏、鯉を買いに行った。黄金、赤松葉、昭和を1匹ずつ買って帰った。ちょうど、サッカーワールドカップの際中だったので、それぞれ、エジル、元気、メッシと名付けた。ここまではよかったのだが、その数日後、ほかの鯉たちに異変が次々と発生。泳ぎ方がおかしくなり、肌が赤く充血していった。新しい鯉を入れるときには注意せよと本で読んでいたので、不安はあったのだが、大量の塩投入の甲斐もなく、合計6匹死んだ。最後に死んだプー(プラチナ)は、埋める場所がなく、木の根っこに邪魔されて、浅くしか埋められないところに埋めた。そのため、数日後、野良猫に引きずり出されて、無残な姿をさらすことになった。もっと良い場所はあったかもしれない。言い訳できないが可哀そうなことをした。