都市プランナーの雑読記-その28
最相葉月『セラピスト』新潮文庫、2016.10
2021年6月8日
大 村 謙 二 郎
最相さんはノンフィクションライターでいろいろな分野で綿密な取材をして発表されています。この方の評伝「星新一」も大変興味深く読みました。
この書は、自身も心の病の問題を持っている最相さんが自身をクライアントとして著名な精神医師でのカウンセリングを受ける様子も交えて、逐語録という形で本書に盛り込みながら、日本で心の病にどのような取り組みがなされてきたか、その草創期から、発展の様子を多くの関係者への取材を通じて明らかにしています。
特に、この分野の大家、河合隼雄の箱庭療法、中井久夫の風景構成法がどういった形で発想されてきたのか、黎明期の精神医学、心理療法を取り巻く人々の交流も描いて、興味深く読めます。
それにしても近年になって、心の病におかされる人は社会環境の変化、ストレスフルな環境の増大によって、増大傾向でそれに対処する医師、臨床心理士の数は絶対的に不足状況のようです。一人がクライアントにかける時間はどんどん削られ、ゆったりしたクライアントとセラピストの関係が構築できなくなっているとの話には大変だなと思います。
アメリカのドラマ、映画ではよく精神科医が出てくるのを見て、アメリカ社会特有の病理かと思っていましたが、日本でも精神的な病にかかる人が増大していて、精神科医にカウンセリングを受けることは日常的なことになっているのでしょう。
高度情報化社会ということで、ますます、時間の効率的利用や、高速化が追求される社会になると、ますます、ゆったりした時間感覚を持てなくなるではと危惧します。コロナ禍で、ストレスを抱える人がますます増大しそうです。
文庫版でのあとがきに、心の病を負った人々が集まって、自律する鹿児島の出版社の動きが紹介されており、誰もが心の病に冒される状況下にあるときに、精神の病を隔離する偏見から解き放たれないといけないなと思いました。力作ドキュメンタリーです。