都市プランナーの雑読記-その19
中野翠『小津ごのみ』ちくま文庫、2011.04
2021年2月17日
大 村 謙 二 郎
先日、小津安二郎の「晩春」を市川崑監督がリメークした「娘の結婚」を見て以来、また、小津ワールドに魅せられて、手元の何本かのDVDを再度見ました。「東京物語」は何度見てもまた、新たな感慨にとらわれるのですが、私の好きな作品は「秋刀魚の味」です。年頃の娘を持つ中高年となった親父同級生のたわいない会話が何とも味があり、私も友人達とああいった会話を楽しめたらなと思ってしまいます。
でも、いまは同窓会で子どもの結婚や孫のことを話すのはタブー視されるようになったようで、何とも窮屈な世の中になってきていますが。
そんな思いの中で読んだのが中野翠「小津ごのみ」ちくま文庫(2011.04)です。これは2008年2月に刊行された単行本の文庫版。
中野さんの本ははじめて読みました。文庫本の紹介、ウィキペディアなどによると、中野さんは出版社勤務を経て文筆業へいたったコラムニスト、エッセイストとか。1985年からずっとサンデー毎日に連載しているそうです。落語や映画評論を多く手がけているとか。
女性のエッセイストでは私が好きなのは斎藤美奈子さん、米原万里さん等で、結構はまって集中的に彼女らの文庫を読みました。
中野さんのこの「小津ごのみ」はユニークな視点で、小津の世界を微細に分け入って解読しており、読んでいて面白く、頷く箇所が多くありました。
たとえば、小津作品の中には父親と娘の関係を描いた作品が多いのですが、男性のインテリ批評家だとフロイト的な解釈や、文化人類学的な解釈で蘊蓄を語るのですが、中野さんはそういった視点を、易々と越えて、具体的で映画素人にわかる論理で、説得力のある見方を提示していて、こちらの方が共感できる点が多かったです。
最後の第4章にいま見られる小津映画全37本の簡単な解説と、中野さんのお薦めの星が付けられており、参考になります。
私の一番の好みはなんといっても「秋刀魚の味」です。小津がさりげなく、いかに日本が愚かな戦争に突入していったかを批判し、軍部が横暴を極め、威張らない社会が実現した戦後の平和な市民生活の大切さを伝えていることがわかります。