都市プランナーの雑読記-その18
大河内直彦『チェンジング・ブルー 気候変動の謎に迫る』岩波現代文庫、2015.01
2021年2月8日
大 村 謙二郎
解説を書いている、成毛眞さんが書評サイトで激賞していた本。実際、書店で立ち読みして、面白そうだと思い購入して、読みました。
以前、成毛さんの新書を購入して、ちょっと違和感を覚え、あまりこの人のことは信用できなかったのですが、この書に限って言えば、その目利きぶりに敬服しました。
大河内さんは、1966年生まれで、海洋研究開発機構の生物地球科学分野の分野長をつとめる、現役バリバリの生物地球科学を専門とする研究者です。忙しい中で、このような一般市民あるいは高校生や大学生に向けて、わかりやすい形でしかも水準の高い科学ノンフィクションを書かれたことに感服しました。
地球温暖化問題について、異論を唱える人もいますが、多くの科学者の共通認識として地球温暖化問題が自然の持つゆらぎを超えて進行しているとことは疑いない事実であり、それはこれまでの科学者共同体が積み上げてきた研究、調査実績に裏打ちされている、というのが大河内さんの基本的立場です。
大河内さんは本書を通じて、今後数十年、数百年にわたる気候変動を知るためにも、短い期間の過去の経緯を知るだけでは不十分であり、気候の変動を支えている地球の仕組み、地質学的、海洋科学的メカニズムを深く理解すること、数万年、さらには数十万年単位の地球の歴史を知ることが不可欠だという立場から本書を書かれています。
世界中を舞台に、多くの科学者、研究者が地球の気候変動の謎を探るためにいかに懸命の努力を重ねてきたか。
独創的なアイディアで、長大な氷柱に刻まれている気候変動の履歴をどう読みとこうとしたのか。
海流の巨大な流れが地球環境にどのような影響をもたらすのか。
太陽からのエネルギーの受け止め方と地球のエネルギーバランスのメカニズムがどう気候変動にかかわってくるのか。
こういった謎を解明するために、昔ならった化学や地質学のことは全く忘れた、素人の私にも、わかるような形で、難しい化学式、数式、理論を使わずに本書の説明、議論が展開されていきます。
大河内さんは現役の科学者であると同時にすぐれた科学ノンフィクションライターです。
特に、この書では気候変動の謎に取り組んだ魅力的な人物、異色の科学者たちについて興味深く、エピソードを交えて書かれており、人類共通の課題である地球温暖化問題に取り組む研究者、科学者へ、あるいは取り組もうとする若者に指針を与える書だと思います。
ちょっと時間がかかったのですが、大変上質で楽しい読書体験が出来ました。