コラム第1回
岐阜
2020年4月10日
早 水 輝 好
1月から顧問を拝命したが、何かあったときの助言役ということなので、普段は特に事務所で働くことはなく、近くに行ったときに立ち寄る程度である。コロナ対応のため先週から他の業務も在宅となったため、ますます事務所から遠ざかりそうと思っていたところ、小澤所長からコラムの原稿を書きませんかとのお誘いがあった。最近書いている原稿や資料は仕事がらみ(環境関係)の総説・解説ばかりで、それ以外の文章を書いたことは久しくないが、大学の頃はサークルの刊行物を作ったりしていたなあと思い出し、せっかくなので何か書いてみることにしようとお引き受けした。専門の環境に関係ある話になるか関係ない話になるかはその時の気分で、ということにして、とりあえず最初はふるさとの岐阜のことを取り上げることにする。
「岐阜」は織田信長が命名したと言われている。「阜」は「丘、ゆたか」というような意味らしいが、他ではほとんど使われていない漢字である。岐阜市を含む美濃地方は東西の交通の要衝で、司馬遼太郎は「国盗り物語」の中で斎藤道三の言として「美濃を制するものは天下を制す」と記している。
今年の大河ドラマ「麒麟がくる」の主な舞台として地元では盛り上がっているようだが、私には子供の頃に見た「国盗り物語」(1973年)が印象深く、よく覚えている。平幹二朗が斎藤道三、高橋英樹が織田信長、近藤正臣が明智光秀、火野正平が秀吉、松坂慶子が濃姫、と主な配役がすらすら出てくる。斎藤道三に追放される土岐頼芸を演じた金田龍之介も印象的であった。「マムシ」と呼ばれ悪役だった斎藤道三が「国盗り」の主人公として描かれて人気を博したため、それまでまったく表に出ていなかった常在寺などの道三ゆかりの場所が突如観光地になり、秋の「信長まつり」とともにあった春の「岐阜まつり」が「道三まつり」と呼ばれるようになった(正確には地元の神社の「岐阜まつり」に重ねて「道三まつり」が開催されているということを最近初めて知った)。
岐阜県は飛騨地方と美濃地方に分けられるが、この2つの地方はあまり共通点がなく、また中央線沿いの美濃地方東部(東濃地方)はどちらかというと名古屋との結びつきが強いので、「岐阜県」としてのまとまりはあまり感じない。私にとっての「岐阜」は「岐阜市」ということになる。
岐阜市は人口約40万の都市で、昔は繊維産業で栄えたのだが、日本の主要産業が軽工業から重化学工業に移ると衰退し、むしろ名古屋からJRの快速で20分弱と近いことから、県庁所在地であると同時に名古屋のベッドタウンとしての位置づけで人口を維持している面もある。長良川の扇状地で広い土地があることから、都市開発が進んでも周辺に自然が適度に残っている。織田信長の居城であった岐阜城(旧稲葉山城)は標高329mの小高い金華山(旧稲葉山)の上に築かれた山城であり、ロープウェーで行くのが一般的である。残念ながら失火で焼失したため現在の岐阜城は鉄筋コンクリートのお城だが、岐阜城に立って市街を見下ろすと、確かに天下をとった気分になる。鵜飼いでも有名な長良川とこの金華山とが岐阜市の2枚看板であり、学校の校歌にも多く使われている。
やや内陸なので夏は暑く、冬は少し冷える。若狭湾から伊勢湾のルートにそれほど高い山がないことから冬の季節風が吹き抜け、太平洋側である岐阜市でも比較的よく雪が降り、年に1-2度は20~30cmぐらいの積雪がある。高山市や白川郷、北アルプスなど観光地が多い飛騨地方に比べて岐阜市や美濃地方の観光地としての知名度は今ひとつだが、季節感があって自然も残り、そこそこ便利なので、住みやすいところだと私は思う。
岐阜市でも地方都市にありがちなドーナツ化現象が進行しており、繁華街の柳ヶ瀬はデパートが撤退してシャッター街化が進み、駅前の繊維問屋街の一部も再開発された。私が通っていた柳ヶ瀬に程近い小学校は、私の頃には1学年5クラスあったのにだんだん子供の数が減ってとうとう1クラスになり、長い議論の末に隣の小学校と3年前に統合されてしまった。ドーナツ化が進むと車なしで生活できなくなり、高齢者にとって不便な町になってしまうことから、岐阜県の北隣の富山市では、LRT(Light Rail Transit)と呼ばれる路面電車を導入し、低炭素社会を目指しつつ中心街に活気を取り戻す「コンパクトシティ構想」を進めている。岐阜市は逆に以前あった市電が廃止され車優先の町になって久しいが、同じぐらいの規模の富山市の事例を参考に中心街の活性化方策が進められることを期待する。
岐阜のみやげはそんなに種類が多くないが、私が一番好きなのは「鮎菓子」である。やわらかいカステラ生地でお餅(求肥(ぎゅうひ))を包み、シンプルな鮎の形に整えたお菓子で、ほどよい甘さと歯ごたえがある。4社ぐらいから出されていて、味は微妙に異なる。他には「鵜飼せんべい」という瓦せんべいが昔からあって、職場で配るにはちょうどよく個人的には気に入っているのだが、あまり現代向きでないのか最近は売り場で目立たなくなったのが残念である。
地味な岐阜市ではあるが、岐阜駅前は長い間かかって整備され、現在は(古い人間の私には少し気恥ずかしいが)金色の織田信長の像が駅の方に向かって立ち、お客様をお出迎えする形になっている。「大河ドラマ館」もできているそうなので、(コロナ禍が収まったら)皆さんどうぞ一度岐阜へお運び下さい。
岐阜城(岐阜市HPより)