中尾真理(4月)
2018年4月26日
小 澤 英 明
私は、弁護士になった時は世田谷区池尻に住んだ。その後家を買って柏市の柏ビレジ、45歳になって子供たち全員も東京の学校に通うことになり神楽坂の借家、さらに世田谷区代田、5年前から練馬区向山に住んでいる。柏ビレジに引っ越したときは、自分で自由になる庭が手に入って、バラに熱中し、庭中にバラを植えた。今でも一番好きな花はバラかもしれない。ただ、バラは日本の気候に合わない。病気と虫に弱くて、年中農薬を大量に散布しないと丈夫に育たない。
神楽坂の借家は、前の所有者が画家の小杉小二郎さんで、2階に大きなアトリエのある家だった。画家のアトリエを私は書斎にする幸せを手にしたが、植物を育てる庭もなく、アトリエに差し込む太陽の光をあてにしてランを育てることにした。熱中というほどではなかったが、東京近郊の比較的大きなラン園はことごとく訪ねたのだから、相当に熱を上げたことも事実である。代田では庭も多小あったが、南側に十分に日当りのいい場所がなかった。そこで、日当りが悪くてもよく育つ藪椿を植えた。実家の佐世保の庭から挿し木でもってきた「玉之浦」も、代田の家では、うっとりするほどきれいに咲いてくれた。
ところで、日本のガーデニング関係の本で読ませる本は少ない。中尾真理の「イギリス流園芸入門」は貴重な例外である。代田にいた頃に購入したので、もう10年以上になるが、時々開いて読む。育て方のコツが書いてあるわけではなく、中尾さんの花好きがよくわかる文章が月ごとに並んでいるのだが、中尾さんが英文学者であることから、イギリスのことがところどころに書かれていて魅力を増している。今の練馬の家は、庭が広い。広い庭にあこがれて引っ越してきたようなものなので、この本を読みながら、まだ植えていない花を買う計画を練る時などが一番幸せかもしれない。というわけで、中尾さんが愛情をもって書かれたこの本は、遠いところで一人の男を幸せにしているのである。
先日、岡井隆の「森鴎外の『沙羅の木』を読む日」という本を読んでいたら、鴎外が「杯(さかづき)」という魅力ある短編を書いていることを知った。その中で「わたくしの杯は大きくはございません。それでもわたくしはわたくしの杯で戴きます」という印象深い言葉を発する第八の娘を、鴎外が「サントオレア」の花のように青い目であると書いていた。調べると、矢車菊とのことであり、ネット画像を見ると鮮やかな青である。いつか入手したい。
(自宅のブルーデージー)