「ヴィヴァルディの佳品」弁護士小澤英明

ヴィヴァルディの佳品(2022年6月)

2022年6月3日
小 澤 英 明

 先日来、YouTubeで、ヴィヴァルディの曲をよく聞いている。YouTubeで導かれるままに聴いてゆくと、ヴィヴァルディには佳品が多いことをあらためて思い知らされる。1678年生まれの異国の人の音楽がなぜ今の自分の心を動かすことができるのか不思議だ。膨大な作曲数であることが災いしている。「四季」が異常に有名なものだから、ほかは似たようなものだと、訳知り顔で説明されれば、ああそういうものなのかと、誤解してしまう。
 最近、とくに気に入っている曲は、ヴァイオリンとオルガンのための協奏曲ニ短調(RV541)である。最初は音源だけのYouTubeを聞いていたが、Tatiana Grindenko(ヴァイオリン)とArexei Lubimov(オルガン)の1984年の録画を見つけた。しみじみいい曲だと思う。第2楽章の最後のところなど、旋律も美しいが、オルガンってこんなにいいものだったんだと何だか宝物を見つけて得したような気分になる。このタチアナもアレクセイも、日本人にはあまり知られていないが、調べると、なかなかの実力派である。二人ともロシア人であるし、きっとソ連のオーケストラに違いないが、オーケストラの名称はわからない。このタチアナの様子が、いかにもソ連時代を思わせるもので興味深い。客に媚びるところがないので、スコシコワイが、演奏後に喝采をあびると、笑顔も見えてヤサシソウなお姉さんの一面を見せる。プーチンが、ロシアには西側諸国にはない誇らしい歴史や伝統があると力説しているようだが、何をイメージしているのだろうか。最近ますますロシアがわからない。しかし、このような素朴な所作を見ると、ロシア人の良性も信じたくなる。
 もうひとつ、最近よくYouTubeで視聴するのは、Laudate pueri(RV601)で、ソプラノ歌手のLucianna Serra(ルチアーナ・セッラ)(1946年、イタリアのジェノバ生まれ)の歌が気に入っている。まずセッラが舞台の中央に進む。堂々たるものである。続いてオーケストラの指揮者が登場する。こちらは、パガニーニの戯画に出てくるような髪型の痩身である。伴奏のイケメンのフルーティストは女主人の前にかしずく召使いのように見える。というわけで、この宗教曲(laudate pueriとは、詩篇112の「ほめたたえよ しもべたち」の意味らしい。)を厳かに神に捧げるために地上に配された3人にはとても見えないのだが、イタリアの雰囲気が画面全体からあふれてくる(写真参照)。やはり、イタリアは好きだな。人間が解放されている感じがする。フルートの露払いのあと、セッラが歌いだすと、その声が何とも言えず美しくまろやかである。セッラ70歳近くの映像のはずだが、人間の声は、かなり歳をとっても美しく保たれることがわかる。
 このLaudate pueriの曲がひどく気に入ったため、ほかの演奏がYouTubeに出てないかとさがしていたら、Patricia Janečková(パトリツィア・ヤネチコヴァ)(1998年生まれ、スロバキア人)の映像を見つけた。このヤネチコヴァは、私の最近のお気に入りの女性ソプラノ歌手で、YouTubeでは少女の面影のある時の映像から見ることができる。なぜお気に入りかというと、容姿や美声も理由ではあるが、歌う曲の多くが私の好きな曲と重なるからである。「えっ、これも好きだったの?」と思った。ただ、Laudate pueriは、セッラの方ばかり聞いている。