ロシア音楽(2020年4月)
2020年4月20日
小 澤 英 明
3月29日の日曜日東京は午前中雪が降りしきり、満開を迎えつつあった桜の花にぼたん雪が白く積もった。咲き始めたチューリップにも非情な雪がのしかかる。冬の間から咲いていたパンジーやアネモネも春を迎えて勢いよく大きな花を次々につけ始めていたのに、数時間ですっかり雪に覆われた。庭は白い雪の中にこれらの赤やピンクや紫の花々が点在する光景となった。小池知事がコロナ問題で外出自粛を呼びかけるなか、外出するのもはばかられる。一気に冬に戻ったような寒さの中、部屋を暖かくして、こういう時はロシア音楽に限ると、ロシアものをさがした。
私が大事にしているロシア音楽のCDに、ウラディミール・トロップのロシア・ピアノ小品集がある。第1集「アルバムの綴り」、第2集「ロシアン・メランコリー」、第3集「夕べの夢想」と3枚発売されている。名曲ぞろいで、チャイコフスキーやラフマニノフの曲も含まれてはいるが、有名ではない作曲家にも魅力のある作品が多いことを教えてくれる。ロシア音楽がドイツやイタリアやフランスの音楽より好きなのかと問われると、決してそうではないのだが、ロシア音楽には独特の魅力がある。ファンの多いスクリャービンやプロコフィエフやストラビンスキーなどは私の好みではないのだから、ロシア音楽とひとくくりにはできないが、トロップが集めたロシア・ピアノ小品など聞いていると、しみじみいい曲が多い。
ロシアの作曲家で最初に好きになったのはご多分に漏れずチャイコフスキーで、中学生の時に寮の友人と鹿児島の映画館でその伝記映画を見て好きになった。今、調べてみると、その映画は1970年にソ連で制作されている。すぐに日本で観られたとすると、14歳か15歳の頃で、もう50年近くも前のことである。全編にチャイコフスキーのピアノ協奏曲が流れ、冒頭の部分が繰り返された。チャイコフスキーの音楽は大衆的だとか言われるが、旋律の魅力からすると匹敵する作曲家は多くはないのではないか。かなり前のことになるが、プラシド・ドミンゴのボックスものを買ってきて、曲目も確認しないまま、CDの曲順に聞いたときに、チャイコフスキーのエフゲニー・オネーギンのレンスキーのアリアで心がゆさぶられた。そのとき初めて聞いた曲だった。
もう一人ロシアの作曲家を挙げるとすれば、私にとっては、ラフマニノフである。先日、YouTubeでホロビッツのラフマニノフのピアノ協奏曲第3番の演奏がアップされていることに気づいた。まさか、このような動画を見られるとは。第1楽章のサビと私が名づけているあのとんでもない盛り上がり(その後のカタストロフィに落ちる寸前)のところで、ホロビッツが頭を何度も大きく前後に振っていることを確認した。この曲と言えば、マルタ・アルゲリッチがリッカルド・シャイー(この男はチョイワル男に違いない。曲がサビにそろそろ入っていくぞというところで、ニヤッと笑う。)の指揮のもとで演奏したものが忘れられない。今、ニコニコ動画でその演奏を見られる。「著作権はどうなってんだ?」と思いつつ、久しぶりにアルゲリッチの勇姿を見た。