サマークラークのプログラムを終えて(2022年9月)
2022年9月13日
小 澤 英 明
この夏、当事務所でもサマークラーク5名を採用して、2週間リサーチを手伝ってもらった。昨年英米の環境関係の大学に進学したいと意欲のある女子高生を1週間あずかったことはあったが、サマークラークの採用は今年がはじめてである。大手の法律事務所が行うのと同じ条件で法科大学院生を対象に希望者をつのったところ、すぐに定員を超えた応募があった。その中から5名を選んで2班に分けた。第1班は8月22日から、A、B、Cの3名、第2班は8月29日から、D、Eの2名、それぞれ1週間。第1班は、どちらかというと不動産に関心がある3人、第2班は、むしろ環境に関心のある2人。
サマークラーク5名の共通のテーマを「農地」としたが、それは、私がサマークラークの力を借りて、「農地」についての情報を収集し、将来のセミナーや執筆に役立てたという動機からだった。日当を支払うことにしていたので、サマークラークの5名もさすがにまじめで、熱心にリサーチしてくれた。A君には①農地の宅地並み課税に関する過去の経緯と生産緑地の2022年問題、Bさんには②平成以降の農地に関する裁判例、Cさんには③農地の土地取引に関する過去20年ほどの規制の変遷、Dさんには④農薬の環境問題と法規制、E君には⑤肥料の環境問題と法規制という課題を与えた。それまで農地の法的問題など、法科大学院生は考えたこともなかったであろう。
当事務所の企業会員向けの不動産法セミナーを第1週の、環境法セミナーを第2週のプログラムに配して、それらをサマークラークも聞けるようにした。不動産法は、私が「賃料増減請求 ―コロナ禍の問題にふれて-」を講演し、環境法は、弁護士法人イノベンティアの町野静先生に「環境問題とメーカーの責任 ―東京大気汚染訴訟及び建設アスベスト訴訟を題材にした検討―」を講演してもらった。また、当事務所の顧問の先生方が参加する不動産茶話会や環境茶話会というセッションも設けた。大村先生や鎌野先生には、ドイツの留学時代やドイツへの法制調査の経験などを語ってもらった。鷺坂先生や早水先生には、環境省の組織の内情を語ってもらったが、他では聞けない話が満載だったのではないかと思う。なお、私も、コロンビア・ロー・スクール時代の教科書やニューヨーク州の司法試験の予備校(barbri)時代の教材がまだ手元に残っていたので(写真参照)、それを見せながら、「ほら、こんなに書き込みしてるだろう」と、留学時代の勉強自慢もした。鉛筆の小さい字でよく書き込みをしたものだ。もう30年以上も前のことである。古くなっているが。アメリカの法律書の重さと大きさに、皆、驚いていた。私も、大きなリュックに重い法律書をたくさんつめこんで、コロンビア・ロー・スクールの構内を歩いていた頃が懐かしくなった。
今回、若い人たちに接することができて、私もいろいろと新しい情報を得ることができた。一番感じたのは、法科大学院制度が、当初の理想から大きくそれてしまっているのではないかということ。予備試験があるものだから、制度が破壊されつつあるように思う。もう後戻りはできないだろうが、予備試験という当初は小さな穴から法科大学院という堤防が決壊していっているような感じを受けた。