「オフロード車排ガス規制」顧問鷺坂長美

「オフロード車排ガス規制」

2019年7月22日
鷺 坂 長 美

 オフロード車というと一般的には公道以外の砂地や泥地等を走るクロスカントリー用の車を思い浮かべることが多いと思いますが、ここではいわゆる「働く車」、フォークリフト、ブルドーザー、バックホウ、ショベルカー、農耕用トラクター、コンバインなどです。2003年、2004年ごろ、小泉政権下でしたが、ディーゼルバス・トラックの排ガス規制について、「世界一厳しい規制」にするという方針のもと中央環境審議会で議論していました。特にPM(粒子状物質)は1994年基準と比べると4%以下という大変厳しいものです。ディーゼルエンジンで動くものにはいわゆる「働く車」があります。公道を走行するものは自動車の排ガス規制の対象となり道路運送車両法により規制されますが、作業現場まで大型トラックのようなものに乗せられて運ばれ、作業現場でのみ活動するもの、いわゆる「オフロード車」は未規制となっていました。
 自動車からの排ガス規制を強化していくと自動車排ガスの中でこういった公道を走行しないオフロード車の排ガス割合が高くなります。当時のデータですが、窒素酸化物で約25%、粒子状物質で約12%の寄与率です。オフロード車にも排ガス規制が必要ではないか、と考えられていました。環境省内部でそうした議論をしているときです。ある大物政治家から呼ばれ局長と二人でいくと、オフロード車の排ガス規制を環境省が主導してやってほしいということです。環境省のような規制官庁にいると規制が厳しすぎて過剰規制ではないか、とよくお叱りを受けるのですが、今回は規制してほしい、ということです。よく聞いてみますと、オフロード車はそれぞれの業界によって所管官庁が異なり、例えばフォークリフトは経産省、ブルドーザーは国交省、コンバインは農水省という具合ですが、各省が縦割りで別々に規制されてはかなわない、ということからのお話しのようでした。
 早速、局に帰ってから担当を決めようとしましたが、いざ本格的な作業に入るとなると担当課を決めるのも簡単ではありません。自動車環境対策課は公道を走行するものではないからという理由で、大気環境課も大気汚染物質の発生源が動くからとの理由で受け付けません。しばらくは総務課で担当し、自動車環境対策課の課長交代時にオフロード車の排ガス規制が課題だからと引き受けていただきました。
 各省にまたがる事柄はそれぞれの権限の調整をしながら進める必要がありますが、案の定、まとまりません。オフロード車は同じエンジンを使ってアタッチメントを変えることでいろいろな車になっていくということもあったと思います。経産省はエンジンのみ規制すればいいのではないか、国交省の建設関係では使い方で問題が生じるなら車自体を規制しなければ不十分ではないか、国交省の自動車関係では自動車の一環でいいのでは、ということです。国交省内の議論が最後まで残りました。環境の窓口に、「なんとか省内をまとめてほしい」と泣きついたこともありました。「出島論」といって国交省から環境省に担当者に来てもらうからどうか、ということもありました。結局取りまとめるのに2年近くを要しましたが、なんとかまとめることができ、2005年5月に公布することができました。正式な法律名は特定特殊自動車排出ガスの規制等に関する法律です。関係省庁が横並びで共管するものです。中央省庁再編で旧運輸省と旧建設省が一つになっていたからなんとかまとまったのではないか、と当時思ったものでした。

 

(出展 環境省ホームページ http://www.env.go.jp/press/files/jp/6445.pdf