「『古代のゴールド 10選』(山口遼)」弁護士小澤英明

 

「古代のゴールド 10選」(山口遼)(2021年12月)

2021年12月6日
小  澤 英  明

 先月1日から日経朝刊の最後の紙面に山口遼氏の「古代のゴールド 10選」という連載があり、毎回すばらしい金細工に目を見張った。金と言うと、ある弁護士の左手首に光り輝く金の腕時計を見るたびに、これは私の趣味ではないなと、感じていたのだが、金に対する偏見がなくなった。こればかりは、紙面の写真を見て美しさを実感していただくしかない。著作権のため、ここではその写真をお示しできないのが残念である。とにかく、古代人がここまで精巧な、また、上品な金細工を作り上げていたということを知ることができただけでも、この連載の関係者に感謝する。
 日経は、一般的には経済記事ばかりの印象かもしれないが、今や土日の朝刊等の文化欄が充実している。私は、西村眞田(西村あさひの前身)に入所した頃から仕事の必要上、日経を購読するようになったが、長年、熱心な読者ではなかった。しかし、その中で、常に楽しみにしていたのが朝刊の最後の紙面である。ひとつは私の履歴書があるからで、自叙伝好きの私は、ここがなかったら日経を購読していなかったかもしれない。もうひとつは、この紙面の文化欄が、何とも言えず、味のあるものだったからである。世間的に有名ではない人の記事が毎回掲載されていて、よく、こんな人をさがしてきたものだ、といつも感心していた。朝日も読売も毎日も、文化欄には力を入れてきたと思うが、多くの場合、有名文化人の記事だった。しかし、日経は、一味も二味も違っていた。この文化欄を担当した人は、自分の目と耳と口と頭で確かなものと信じたものを選んで載せていたのであって、私は、その担当者とそのことを認めていた編集者を尊敬していた。最近、その傾向がやや薄れてきてはいないかと思うところもあるのだが、山口遼氏の「古代のゴールド 10選」のような連載を見ると、確かなものを日経文化部は引き継いでいると思う。
 もっとも、山口遼氏は業界では広く知られた人であった。宝飾品に縁のない私だから知らなかっただけだったようである。これだけ美しい「古代のゴールド」を選んで紹介することができる人だから、只者ではあるまいと、予測してググると、「北海道生れ、同志社大学卒業後、ミキモトに入社、常務取締役、営業本部長を経て退任後、アンティークジュエリーの研究と販売に従事」とあった。そこで、先日、週末の楽しみの池袋のジュンク堂で、そのご著書がないかとさがした。8階に行くと、「ジュエリーの世界史」(新潮文庫)があった。
 この山口遼氏の「ジュエリーの世界史」は、読みごたえがある。この本の冒頭は、日本民族だけがその長い歴史の中でほとんどの間、全く普通の宝飾品を使用しなかった、おおげさに言えば、人類史上極め付きの例外である、との指摘から始まる。この、読者をぐいと引きつける書き出しなど、さすが宝石業界で長年もまれてきた方だけのことはある。この本の中には、「宝石が嫌いな女性はいないが、宝石が好きな男性もほとんどいない。」と書かれている部分もある。宝石商と言うだけで男性には身構えられてしまうようだ。身構えられては商売にならない。読者の知識欲をそっと刺激して警戒を解いてから、おもむろに話を進められるところなど、審美眼だけでなく、筆力も相当の方である。