「PM2.5(微小粒子状物質)」

「PM2.5(微小粒子状物質)」

 前回に引き続き今回も粒子状物質関係のお話です。
 環境省では毎年公害被害者総行動にあわせ公害被害者の方々と交渉が行われています。私が大気環境関係の仕事をしていたとき(2003年ころ)の要請事項にPM2.5の環境基準の設定という課題がありました。当時、すでにアメリカでは環境基準が設定されていたので、日本でも設定すべしということです。PM2.5は粒径が2.5µm以下の粒子で微小粒子状物質ともいいます。髪の毛の太さの三十分の一にも満たない非常に小さな粒子です。粒子が小さいために肺の奥深く肺胞から循環器系まで入り込んで呼吸器系への影響のみならず循環器系の疾患の原因にもなります。アメリカの環境基準は重さによって定められていましたが、EUではPM2.5の健康影響はその重さではなく粒子の数によるのではないか、という議論もありました。当時の環境省では未だ研究段階という状況だったかと思います。
 1980年代後半から全国各地で大気汚染訴訟がありましたが、最後の大気汚染訴訟といわれたのが東京裁判です。これは自動車排ガスによる大気汚染で健康被害を受けた方が損害賠償を国、東京都、首都道路公団、自動車メーカーに求めたものです。2002年に一部原告勝訴の地裁判決があり、控訴審にかかっていましたが、当時の都知事の判断もあり、2007年に和解が成立しました。東京都による医療費助成制度の創設等とともにPM2.5の環境基準の設定が和解条項にはいりました。私がロンドンの研究機関から環境省の水大気環境局長に着任したのが2009年7月ですが、すでに検討会での検討は終えていたので、2009年9月に環境基準の設定手続きを行いました。重さによる基準で1年平均値15μg/㎥以下、1日平均値35μg/㎥以下です。
 日本の大気環境については各都道府県等で設置した測定局で常時監視しています。環境基準が設定されている汚染物質については物質によって1000~1700の測定局があり、広域監視システム「そらまめ君」(http://soramame.taiki.go.jp/)によりリアルタイムで見ることができます。最初、どうして「そらまめ君」というのか、よくわからず、ジャックと豆の木に関係があるのかな、なんて思ったものでした。実は空をまめに見るから「そらまめ君」という愛称が付けられているということです。余談ですが、環境省では例年2月から5月末ごろまでの花粉の飛散状況を観測して、花粉観測システム(http://kafun.taiki.go.jp/)として運用していますが、その愛称は「はなこさん」です。
 環境基準が設定されれば全国の状況を常時監視しなければなりません。全国の都道府県等で行う事務です。地方分権一括法(1999年)以前は知事等に委任した国の事務で観測機器の設置についての補助金もありましたが、法改正で地方の事務となり、補助金も廃止されてしまいました。当時、常時監視についての技術的助言である処理基準等を改定してPM2.5の観測網を整備しようとしましたが、なかなか思うようにはなりません。全国の状況がわからないのでは、とおしかりを受けたものです。財源としてはカウントされているのですが、基準が設定されても直ちに自治体の予算が増えるというものでもありません。
 2012年ごろから中国の北京市でPM2.5の問題が顕在化してきました。日本でも越境汚染があるのでは、とメディアでも大きく報道されました。環境省ではすでに環境基準を定めていましたので、その数値と比較してどうか、ということで対応がなされ、注意喚起のための基準も発表されました。メディアで大々的に取り上げられたからでしょうか、自治体の測定網の整備は急速に進みます。今では測定局は1000局を超え、全国を常時監視しているといえるまでになってきています。

(「そらまめ君」のキャラクター 環境省ホームページより)