「都市プランナーの雑読記-その14/二松 啓紀『絵はがきの大日本帝国』」顧問大村謙二郎

二松 啓紀『絵はがきの大日本帝国』平凡社新書、2018.08

2020年11月26日
大 村 謙二郎

 通常の新書の2冊以上に相当するボリュームの本ですが、興味深く読みごたえのある本です。
 著者は京都新聞の記者ですが、立命館大学の客員研究員もつとめ、多くの著作がある人です。以前、この人の『移民たちの「満州」-満蒙開拓団の虚と実』(平凡社新書)を読んで、私の知らなかった満蒙開拓団のことを地道な取材で掘り起こし、しかも読みやすい論にまとめているのに感心した記憶があります。
 世の中にはいろいろな形のコレクターがいるものです。本書の重要な素材となったのは米国ニュージャージー州在住のドナルド及びミチコ・ラップナウ夫妻所有の膨大な絵はがきコレクションです。ご夫妻は世界的な絵はがき収集家でプライベート博物館を持つと同時に年に1,2ヶ月は京都にある別宅に滞在して、収集活動等をしているとか。
 ラップナウコレクションを紹介する記事を京都新聞で112回にわたって、著者の二松さんが連載したことがこの書のきっかけです。それ以降、二松さんはラップナウコレクションをベースに独自に絵はがき、関連資料を収集して、絵はがきを通しての戦前の大日本帝国の盛衰過程を描く、近現代史を書こうとおもいたったのが、この書成立のきっかけです。
 序章、補章を含めた全体で次の10章からなっており、おおよそ時系列の展開となっています。

序章   絵はがきと「大日本帝国」のイメージ
第1章 勃興する島国-北清事変から日露戦争へ
第2章 広がる帝国の版図-台湾・樺太・朝鮮
第3章 極東の覇者-第一次大戦とシベリア出兵
第4章 近代日本の可能性-産業発展と豊かさ
第5章 破綻する繁栄-関東大震災の「前」と「後」
第6章 二つの帝国-満州特殊権益と満州の軌跡
第7章 戦争か平和か-「昭和」という名の振り子
第8章 欺瞞と虚栄-日中戦争と太平洋戦争
補章   ラップナウコレクションから見た「大日本帝国」

 19世紀末から20世紀前半にかけて、極東の島国だった日本が、戦争を通じて巨大化し、軍事強国となり、また、一応の近代産業国家になる過程を示す資料として絵はがきが格好の素材となるというのは、大変ユニークな着眼点だと思われます。
 新聞、ラジオなどの普及が進んでいなかった時代に絵はがきはその視認しやすさ、わかりやすさで一般庶民への重要なメディアとなっていたようです。絵はがきの中に各種統計や、地図、写真が描かれており、ある種のフレーム、バイアスがあるとしても、当時の時代の雰囲気を示す格好の素材となっています。さらに、国や軍部、関連機関の宣伝媒体として、当時絵はがきは重要な役割を果たしていたとのことです。都市計画史研究などにおいても、明治、大正、昭和期の地域、都市や盛り場の様子を知る上で、視覚情報として絵はがきは活用されています。
 二松さんはこういった絵はがきの特性と問題点を十分認識した上で、大日本帝国が20世紀前半期にいかに成長、拡大していったのか、広げた版図、植民地でどのような政策を展開し、どういった足跡、成果、問題を産み出したのかを絵はがきなどを本書に適宜盛り込み、視覚的に訴えながら、わかりやすく論述しています。
 知らなかった樺太の状況、台湾、南洋諸島の様子なども興味深くよめました。いろいろな素材を使って、近現代日本の知らなかった面を掘り起こす作業は大変貴重だと思います。