「都市プランナーの雑読記-その10」顧問大村謙二郎

 

曲沼恵美『メディア・モンスター 誰が黒川紀章を殺したのか?』草思社、2015.04

2020年10月20日
大  村 謙二郎

 本屋で平積みされてその存在は気付いていたのですが、表題が何となくスキャンダラスな雰囲気で中味を見ることもなく、当初は買わなかったのですが、やはり気になり読んでみることに。
 昔、都市工学科に進学する頃に、黒川紀章の『都市デザイン』(1965年)を読んだ記憶があります。その時は意識しなかったのですが、黒川紀章が31歳頃にこの本を書いているのです。書架に当時買ったこの本があったのであらためて、パラパラ見てみたのですが、黒川の文才、才能にあらためて驚かされました。
 さて、この本ですが、黒川紀章が設立した数多くの事務所、会社の職員だった人、友人、関係者、同僚などに幅広くインタビューをし、さらに、関連の資料、文献を幅広く集めて読み込んだ上で書かれた、一級の評伝です。
 黒川の生い立ちの頃、京都大学時代、東大大学院の丹下研をスピンアウトして20代で自分の事務所である「黒川紀章建築都市設計事務所」を構えて以降、あれよ、あれよという間に建築界のみならず、マスメディアの寵児となっていく様子を詳細に明らかにしています。
 また、黒川自身のことだけでなく、彼の師でありライバルとなった丹下健三のこと、黒川が影響を受けた浅田孝のこと、黒川が設立に関わったメタボリズム・グループとの関係、特に川添登との交流、黒川事務所を支えた職員たちから見た黒川像などが多面的に描写されています。
 また、黒川が社会的に活躍し、その存在感を増していく過程の社会、経済的背景、動向が書き込まれ、たぐいまれなマスメディアの寵児となった黒川の像が鮮明となります。
 読書体力、集中力がないので600ページを超える分量の本書を一気読みはできませんでしたが、比較的短期間に興奮して読みました。
 建築家、都市デザイナーであり、多彩なタレントであった黒川紀章の一級の評伝です。黒川紀章は毀誉褒貶の激しかった人だし、まわりのスタッフたちにとっては大変な人だったと思いますが、天才である面と同時に、類い希な努力、集中力、記憶力の人だったようです。何十年かぶりにあらためて彼の『都市デザイン』を読んでみようと思います。
 この本の著者、曲沼さんは日本経済新聞の記者をされていたようですが、2002年からフリーランスとなったジャーナリストです。都市、建築の専門家ではないのでしょうがよく取材され、建築、都市計画のことをわかりやすく、深く伝える力のある人だと思います。この本のタイトルは、出版社がつけたのかも知れませんが、サブタイトルといい、ちょっとミスリーディングではないかなと思いました。