都市プランナーの雑読記-その80/進士五十八『日本の庭園 造景の技とこころ』

都市プランナーの雑読記 その80

進士五十八『日本の庭園 造景の技とこころ』中公新書、2005.08

2024年7月10日
大  村 謙二郎

 新刊書として以前購入しておいたのだが、ずっと放置して、最近読み始めた。読むのに時間がかかりました。進士さんは造園、緑地学の第一人者で社会的にも多く活動されている論客です。
 この書は本格的日本庭園入門書という触れ込みですが、入門書としてはそれほど平易でないし、ハードルが高い本です。そう感じるのは私が造園、日本庭園やその歴史的背景にある神道、仏教などに対して基礎的知識がまったく欠如していること、また、日本庭園の策定技法についての独特の用語などになじみがなく、すらすら頭に入る内容では無いからだと思います。そういったハンディを持った形での読書なので、なかなか、すっと理解できませんでしたが、進士さんの深い学識、教養が各所に披瀝されており、ところどころで示唆を受けるところもあり、たいへん勉強になりました。
 本書の構成は次のようにプロローグとエピローグを挟んで3章構成となっています。
プロローグでは「ホモ・ガーデエンシス」と題して、ガーデンを文明史的に位置づけ、日本が今後、ガーデンアイランドを目指すべきとして本書の導入としています。
 第1章は「神仏の庭と人間のにわ」と題して、日本庭園の時代的展開と形式について語っています。日本庭園通史の章です。神社、仏閣についての知識、教養がないとすっと頭に入りませんが、中国などからの影響を受けながらも日本庭園が独自の発展をしてきたことがわかります。
 第2章は「日本庭園の技術とこころ」で日本庭園の特色をあげた上で、植栽術、水工法、土の造形、石組法、庭灯籠、庭橋、垣根術、園亭、園路術、敷砂術、風水術、生き物術、芝生術、季節術の技法について述べています。なかなか、すっとは理解できませんが日本庭園の策定術が時代をかけて発展、洗練されてきたこと、中国の影響が強かったことが語られています。それぞれの専門分野において、独自の用語、技法が蓄積されていることをあらためて、認識しました。都市計画に比較的近しい分野でも、私の不勉強故だが、こういった技法があることなど知らないことが多々あります。
 第3章は、日本の名園三十六景をあげて、それぞれの名園、庭園の特質を解説しています。いくつか訪れた名園も挙げられていますが、見る目がないと、通り一遍の印象しか受けない庭園も深い技、工夫があることが指摘されています。はたして、今後の寺社仏閣などの庭園を見る眼が養われたか、不安であるが、勉強にはなります。
 エピローグは「ガーデニングからファーミング」と題して、育てる庭、造る庭に多くの国民、市民が参加する時代となることを展望しています。「環境福祉のためのファーミング」の提唱です。地球環境問題が深刻化する現在、あらためて、みどり、ガーデニングの価値が高まっているし、日本はそういった素地が沢山あるのだと本書を通じて知りました。