都市プランナーの雑読記-その77/清水克行『室町時代はハードボイルド 日本中世のアナーキーな世界』

都市プランナーの雑読記 その77

清水克行『室町時代はハードボイルド 日本中世のアナーキーな世界』新潮文庫、2024.01

2024年4月30日
大  村 謙二郎

 清水克行氏は日本中世史が専門で、特に室町時代を専門としており、テレビの歴史番組の考証などにいろいろアドバイスをする、室町ブームの仕掛け人として評判の人だそうです。1971年生まれで、現在、明治大学教授。この人の本を読むのは初めてです。
 私自身は高校を転校し、ちゃんと日本史を学んでこなかったので、室町時代などについての知識は皆無。なんとなく、混乱期で武士と天皇の対立があったらしいこと、応仁の乱などを経て戦国時代、織田、豊臣、徳川が政権を取る流れをうっすら理解している程度です。
 清水さんによれば、中世日本に生きた人々は、荒ぶる人で、現代的な意味での道徳観、倫理観、正義感とはだいぶんずれた人だったようです。ただ、それなりに彼ら独自の価値観、常識があったことをエンタメ風に解き明かしたのが本書です。学術的な史料を踏まえているらしいが、非常に分かり易く史料を読み解き、室町時代に生きた人々の描写が面白おかしく、すこし哀感もこめて描かれており、歴史エンタメとして、並みの歴史小説以上の面白さで、中世日本の社会、人々はこう暮らしていたのだと面白く、蒙を啓かれて読みました。
 本書はなかなかこった構成で、全体4部構成で、さらに各部は4話からなっています。各部、各章の表題は次の通りだが、この表題を見るだけでなんとなく、本書のいわんとすることがわかります。
第1部 僧侶も農民も!荒ぶる中世人
 第1話 悪口のはなし おまえのカアちゃん、でべそ
 第2話 山賊、海賊のはなし びわ湖無差別殺傷事件
 第3話 職業意識のはなし 無敵の桶屋
 第4話 ムラのはなし ”隠れ里“の150年戦争
第2部 細かくて大らかな中世人
 第5話 枡のはなし みんなちがって、みんないい
 第6話 年号のはなし 改元フィーバー、列島を揺るがす
 第7話 人身売買のはなし 餓身を助からんがため
 第8話 国家のはなし ディストピアか、ユートピアか?
第3部 中世人、その愛のかたち
 第9話 婚姻のはなし ゲス不倫の対処法
 第10話 人質のはなし 命より大切なもの
 第11話 切腹のはなしアイツだけは許さない
 第12話 落書きのはなし 信仰のエクスタシー
第4部 過激に信じる中世人
 第13話 呪いのはなし リアル デスノート
 第14話 所有のはなし アンダー・ザ・レインボー
 第15話 荘園のはなし ケガレ・クラスター
 第16話 合理主義のはなし 神々のたそがれ

 本書が文庫化されるにあたって、余話として「室町ピカレスク ある地侍の生涯」と題して、室町時代の伏見荘という荘園の有力者であり、なかなかの悪人であった三木助太郎義理(そうぎすけたろうよしただ)の生涯を描いています。当時の荘園主の日記などを繙きながら、義理のくせ者ぶり、厚顔無恥、図太い生き方を室町政権の事情と絡めて面白おかしく描いています。義理には到底、共感できませんが、中世時代にこういった人物がいたことに驚かされます。なおかつ、三木一族の末裔は現代に連なり、神社の神主として地元地域社会とつながっているとのオチまでついていて、ビックリ歴史物語です。
 巻末のヤマザキマリとの対談も本書の締めとして面白く読めます。室町のダイナミックな動きを知らなかった者にとっては大変有益な歴史エンターテイメントの本でした。