弁護士小澤英明「ヨビノリたくみさん」

「ヨビノリたくみさん」(2024年5月)

2024年5月28日
小 澤 英 明

 先日からベッドでゴロゴロしてスマホを見ていたら、ヨビノリたくみさん(1993~)のYouTube にすっかり感心した。今頃、ヨビノリさんを知るなんて、遅いよ、と言われてもおかしくないが、独特の才能の人である。理系学生の理系離れを防ぐという目的をもって、主として理系大学生のために物理・数学の興味をかきたてる話を予備校の先生のノリでくりひろげるユーチューバーとして今や絶大な人気をほこっている。理系大学生向きの話だから、当然、私にはわからないことだらけで、ファンを名乗るのもおこがましいのだが、この人のおかげで物理の世界を垣間見ることができる。
 私は、高3の5月に理系から文転したのだが、今や文転して実に正解だったと思っている。鹿児島ラ・サール中学入学時から数学は得意であっても国語は苦手だったので、ずっと自分は理系だなと思っていたのだが、しだいに国語が得意になっていくのに反比例して理科が不得意になる感覚が自分の中で意識されるようになった。不得意というほどのこともなかったが、要するに理科が好きだとどうも感じられなかった。同級生の中には、私の5分の1も勉強しないのに、物理は私よりいい点をやすやすと取る者が何人もいて、理系ではこいつらに勝てないな、と思って、最後は文転した記憶があり、理科の王様というべき物理には特にコンプレックスをいだいていたような気がする。あのまま理系に進んだら、きっと大学に入学して挫折していただろう。しかし、理系といっても建築に進みたかったので、そこまで深刻に考えなくてもよかったのかもしれないが、ヨビノリさんのお助けもない時代である。教養課程で苦しんだことはまず間違いない。鹿児島ラ・サールというところは、世の中にはきわめて能力の高い人物がいろんな分野に何人もいるということを10代で実感させるに実に得難い環境だったと思う。
 なぜ、物理が好きではなかったかというと、物理の法則がすっきりとした数式で表せるところがどうにも腑に落ちなかったからのように思う。そこは、仕方ないんだよ、物理の法則というものはそういうものなのだ、と割り切ればよかったのかもしれない。しかし、今にして考えても、物理の法則がすっきりした数式で表せることが不思議でならない。神様でもいて、世の中をつくったのでもなければ、そんなこと不可能では?と、いかにも門外漢のセンスのない文転男の独り言をつぶやきたくなる。
 こういう文転男にも何かわくわくさせるような気持にさせるのだから、ヨビノリさんはすごい。令和5年度の「科学技術分野の文部科学大臣表彰」科学技術賞(理解増進部門)を受賞されている。内容が確かな証拠だが、話に嘘がなく、本当に自分が重要だと思うことを聞き手に素直に伝えるところがすばらしい。とんでもなくサービス精神豊かな人であり、こういう若者がいるということを知るだけで世の中をプラスに感じることができる。おすすめ動画はいくつもあるが、1901年以降のノーベル物理学賞を20年単位で紹介する動画はすばらしい。真鍋淑郎さんの功績をごく短時間に紹介するところだけを聞いても、なぜCO2が地球温暖化の要因なのかの中心部分を知ることができる。