「都市プランナーの雑読記-その8」顧問大村謙二郎

池上俊一『パスタでたどるイタリア史』岩波ジュニア新書、2011.11
池上俊一『お菓子でたどるフランス史』岩波ジュニア新書、2013.11

2020年9月4日
大  村 謙二郎

 グルメではないけれど、いろいろな食物や料理などには好奇心がある方で、食物に関する本は比較的読む方です。印象に残っているのは角山栄さんの『茶の世界史』中公新書です。ずいぶん前に読んだのですが、茶が国際的な商品となり、イギリス、インド、中国の三角貿易の主役になった歴史を読み解いており、食物の持つ影響力を示している点に感心した記憶があります。この角山さんに影響を受けて、イギリス経済史が専門の川北稔さんの書いた『砂糖の世界史』岩波ジュニア新書も大変面白く読みました。
 『パスタでたどるイタリア史』はジュニア新書のシリーズで若い読者対象でしょうが、高齢者にも読んで楽しい本です。
 池上さんは西洋中世・ルネッサンス史が専門の歴史学者です。パスタの素材がどう生まれてきたのか、ソース材料としてのトマトや辛子などの野菜との関係をたどり、中世のイタリア各地でさまざまな個性を持ったパスタが生まれてくる事情を明らかにしてくれています。南イタリアでは乾燥パスタが、北イタリアでは生パスタが主流であったこと、また、女性が家庭でのパスタ製作にたずさわる伝統の中で、マンマの味という言葉がイタリア人の国民性と結びついていく機微が描かれています。
 中世からパスタの伝統が都市国家であるイタリア各地で生まれてきたのですが、一般庶民の国民食として広がっていくのは20世紀に入ってからであったというのは結構意外なことでした。戦後、アメリカ化の影響でパスタが軽視される風潮が生まれたこと、こういった傾向に対する危機感の延長でスローフードの考え、運動が生まれてきたこと、イタリアの個性豊かな歴史と多用多種なパスタの誕生と各地での発展が描かれており面白く読めました。イタリアという国を、パスタという身近な国民食を通じて理解することの重要性を知りました。
 『お菓子でたどるフランス史』は、池上さんの食べ物から見るヨーロッパの歴史シリーズの第2弾です。
 お菓子は結構好きな方だし、いろいろなところに行けば、その土地のスィーツをお土産に買って帰るようにしています。フランス菓子は本場でそれほど食べたことはないのですが、日本で食べるフランス菓子よりもずっと甘いなと感じます。また、パリの有名レストランで出されたデザートも結構甘くて、ボリュームがあったような気がします。砂糖は、昔は貴重、稀少で高価なものであり、それを惜しみなく使うのが何よりの贅沢、蕩尽だったのかもしれません。
 池上さんの前著と比べて、お菓子の種類は数多く取り上げられ、そのつくり方なども歴史的変遷の中で解説されており、それなりに教えられることが多かったのですが、その味のバラエティの説明についてはちょっと、弱いかなと思いました。
 王侯貴族の国際的な婚姻、縁戚関係の過程でイタリア料理、イタリア菓子がフランスに影響を与え、フランス人は人の良いイタリア人の元祖を奪う形でお菓子の本家を称するようになったとの説明は面白かったです。
 それにしてもフランス料理、フランス菓子も含めて、フランスの文化戦略、文化外交のしたたかさ、強さに感心します。いまでもデパ地下の豪華、高価なスィーツコーナーはフランスのパティシエ、あるいはフランスで修業したお菓子の店が一番良いところに立地しているのもフランスの巧みな文化戦略かなと思います。
 池上さんもフランスのお菓子の甘さには多少、辟易としているようで、フランスで修業して日本でフランス菓子を製作しているパティシエの方がもっと洗練されており、日本のフランス菓子の水準の高さを評価していますが、私も同感です。