「都市プランナーの雑読記-その7」顧問大村謙二郎

御厨貴・阿川尚之・苅部直・牧原出編
『舞台をまわす、舞台がまわる 山崎正和オーラルヒストリー』
中央公論新社、2017年3月

2020年8月27日
大  村 謙二郎

 つい先頃亡くなった山崎正和さんの生涯をたどった本です。
 オーラルヒストリーの第一人者である御厨さんが、山崎正和を相手にヒヤリングをするには、自分だけでは山崎正和の幅広い活動分野をカバーすることは到底できないと言うことで、彼の親しくしている友人、仲間3人を加えて、綿密な聞き書きをやっています。
 具体的には2006年3月から2007年12月までの1年半、1回2時間程度、全部で12回に分けて、ヒヤリングをしています。最初は公刊することなく部数限定の報告書の形で取りまとめられたそうです。当初、山崎は自分の作品として公刊するのに抵抗があったようですが、時間とともに編者たちとの合意も進み、山崎自身が相当に手を入れた形で、刊行されたものです。
 山崎正和は劇作家で多くの戯曲も書いているし、文藝評論、文化論、文明論など多彩な評論活動をする、大学では美学を講義する、さらにある時期から政治と関わりを持つようになり、政府の審議会、私的懇談会などに参画して、政策決定にも大きな影響力を持った人です。
 12回は時間軸に沿って展開してきますが、大きく分けて3部構成です。
 1回から3回までが第1部です。彼の生い立ちと、少年時代の凄まじい満州時代の体験(彼の別の著書「文明としての教育」にもこの時のことが詳しく書かれており、これも感動的ですが)と父の死後、14歳で家長となり一家の支えとなりつつ、満州から引き揚げ京都に戻り、高校、大学時代で活動する出来事、大学を終えて、劇作家として出発し注目を浴びるとともにふとした偶然もあって、アメリカに留学することになり、彼の国際派としての基礎が築かれる時代までが描かれています。
 第2部は4回から8回までです。関西に拠点を置きながら、演劇、評論活動、審議会活動に八面六臂の活躍をする、山崎にとっての疾風怒濤の時代です。日本社会が高度成長の波に乗っていく時代に若手、中堅の文化人として大活躍する山崎の姿が時代と重ね合わせて描かれています。
 第3部は9回から12回まで、サントリー文化財団を設立し、ここをひとつの拠点として関西復権のために、様々なイベントを仕掛け、国際的なスケールで文化活動を推進する様子、知識人として政治活動に参加することの意味、意義等について山崎自身の対象と距離を置いた冷静な議論が展開されています。
 30代から80代になるまでまさに社会の第一線で文化、思想、演劇、評論活動を展開してきている山崎正和の華麗な人生遍歴に圧倒されるおもいです。
 彼の戯曲は読んだことがないのですが、彼の毎回の独演会に近い話は、整理され、理路整然で、しかも劇的効果を狙っているのではという、話しぶりでこれまた、圧倒されました。
 昔から、老成した感じの文体、文章、議論を展開する人だなと思っていたのですが、その背景には満州時代の過酷な体験、京都で高校、大学時代の左翼体験などがあるのかなと思いました。
 以前、御厨チームによる「堤清二オーラルヒストリー」も大変印象深く読んだのですが、今回の山崎正和オーラルヒストリーも読みごたえのある内容でした。