「都市プランナーの雑読記-その26/へニング・マンケル(柳沢由実子訳)『北京から来た男』」顧問大村謙二郎

へニング・マンケル(柳沢由実子訳)『北京から来た男』東京創元社、2014.7

2021年5月17日
大 村 謙二郎

 北欧ミステリーの代表作家、ヘニング・マンケルの作品「刑事ヴァランダーシリーズ」は愛読しています。
 この作品の主人公は刑事でなく、ヘルシングボリという都市の女性裁判官ビルギッタです。60年代末の学園闘争世代で大学時代、毛沢東派にシンパシーを持っていた世代で左翼的活動した経験を持っていて、なんとなく、同世代的感情を持ちます。
 事件は2006年にスウェーデンの寒村で起きた、村人全員が惨殺されるという猟奇的な事件が発端です。なぜ、このような残虐な事件が起きたのか、誰が犯人で、その動機は。
 話は、一挙に19世紀後半のアメリカの大陸横断鉄道の建設活動が展開される砂漠地帯に舞台は移ります。そこの工事監督をする、粗暴で権威主義のスウェーデン人とそれに使役され、虐待を受ける中国人労働者が出てきます。
 どうやら、2006年の寒村の事件と、19世紀後半のアメリカの話につながりがありそうだということが、ほのめかされます。
 主人公のビルギッタは、寒村と関わりを持っていた彼女の母の育ての親たちの先祖の日記を読み、事件の手がかりを得られるのではと感じます。
 今度は、舞台は北京に飛びます。ビルギッタは60年代末の学園闘争仲間で、現在は大学で中国歴史を研究している女友達のカーリンが北京の国際会議で発表するのをきっかけにして、北京観光をしようと北京に同行します。
 ビルギッタはそこで、事件に巻き込まれ、中国の公安に関わりを持つ女性と知り合うことになります。その女性の弟は中国政府に食い込んだ経済的実力者であり、その行動は謎に包まれている部分が多いのですが、どうやら、彼は19世紀後半のアメリカでの過酷な奴隷的鉄道工事に従事し、虐待を受けた男の子孫だということがわかります。
 さらに今度は、舞台はアフリカに飛び、次はロンドンへと空前のスケールで物語は展開していきます。
 話の後半の部分である程度筋書きは見えてくるのですが、それでも、なかなかスリリングな展開で、国際的な政治経済関係が事件の背景にあることを説明して、読者を引き込んでいく、マンケルの筆力はたいしたものです。
 主人公の軽率さや、どうしてそこまでやるのとか、あるいは、周りの人たちとの関係等について、日本社会の感覚ではついていけないような話が出てきます。北欧ではこういった人間関係が普通なのかなと、時々、首をかしげつつ読み終えました。長い時間をかけて歴史的背景を説き起こし、活動の舞台がグローバル時代にふさわしく、地球各地となるなど、全体に楽しめるエンターテイメント小説です。
 中国経済のグローバルな影響力が日増しに増大している現在から見ても、作家マンケルの創造力、洞察力はたいしたものだと感嘆します。