「都市プランナーの雑読記-その25/平川克美『俺に似たひと』」顧問大村謙二郎

平川克美『俺に似たひと』医学書院、2012.02

2021年5月6日
大 村 謙二郎

 平川さんは内田樹の小学校時代からの盟友で、早稲田の理工出身の技術者らしいのですが、学生時代から同人誌を作ったり、詩作に励んだりとか、文学的才能のある方です。
 2009年の暮れに母親が亡くなり、一人残された80代半ばの父親の介護のために、父親の住む久が原の実家に住みつき、父親の世話をしながら自分の仕事をし、さらには介護を行い、父親の死を看取るまでの1年半の私小説風介護物語です。
 平川さんのお父さんは埼玉から出てきて、小さな工場を立ち上げ、町工場の工場主として懸命に生きてきた頑固で職人気質の人だったようです。
 昔風の家庭だったのでしょう、父親は外では町内会活動に熱心で面倒見の良い人だったのですが、家では亭主関白で家事はすべて母親任せで、お母さんは死ぬまで働きづめだったようです。
 昭和の町工場環境に育った平川少年は、普通の意味での家族団らんはなかったけれど、それでも工員との交流や、近所の友達とのつきあいで伸び伸びとした少年期を送ったことがそこかしこで書かれています。
 大学に行き、工場を継がなかった平川克美さんとは決して仲の良い親子関係ではなかったようで、あまり、会話もなかったようですが、父親の最後の1年につきあうことによって、少しは父親と交流でき、打ち解け、父のことを少しは理解できるようになったのではといった事情を日々の淡々たる介護、世話の日常活動を通じて、描いています。父親のために、男一人で料理を作り、風呂に入れ、下の世話をする様子を気負いなく書かれています。
 時折、その折々の社会状況、経済状況が挿入、点描されながら、市井の人々の日常生活の大切さがを叙情豊かに描かれています。
 若いときから吉本隆明に傾倒し、その影響を受けたと思われる文体で感動ものの作品でした。
 「俺」という呼称も、最初は違和感を持って読み始めたのですが、あとがきに生の事実ではなく自分を突き放した形で、身の回りに起きたこと、家族のことを書き記す技法としてあえて「俺」を使ったという、説明を読んで納得しました。