「都市プランナーの雑読記-その23/津野海太郎『花森安治伝 日本の暮らしをかえた男』」顧問大村謙二郎

津野海太郎『花森安治伝 日本の暮らしをかえた男』新潮文庫、2016.03

2021年4月5日
大 村 謙二郎

 2013年に新潮社から刊行された単行本の文庫版です。
 本書は「暮らしの手帖」の創刊編集長だった花森安治の評伝です。花森は明治44年の10月生まれで、私の父と同年代の人です。
 私の小、中学校時代、わが家では暮らしの手帖を講読していたことを記憶しています。この評伝でも詳しく書かれていますが、わが家も暮らしの手帖で掲載されていた、商品テストの影響を受けたのでしょうか。石油ストーブをわが家で購入した記憶がありますが、アラジンのブルーフレームを購入したのは「暮らしの手帖」の商品テストで推奨されたのが影響していたこと思い出しました。
 津野さんは花森安治の生涯を丹念にたどっており、天才編集者であると同時にいささか奇矯な行動をし、凝り性で職人肌であった花森の人物像を巧みに描き出しています。
 津野さんと花森がすれ違った新橋での思い出から始まる序を除いて4部構成からなっています。
 1部、2部は戦前期で、ハイカラで新しもの好きの花森の特色は彼が生まれ育った神戸の影響を受けているとのこと、また、松江高校時代に松江の文化的蓄積に影響を受けたことを巧みに描いています。
 戦時中、家族と共に生きるために大政翼賛会に入り、しかし、彼の職人的仕事観もあり、相当国策活動にのめり込み、花森が作ったという有名なキャッチコピー「ぜいたくは敵だ!」の生まれてきた背景についても津野さんの解釈を提示しています。
 まちがその人の個性を作っていくのだという指摘は同感する点がありました。

 第3部、4部は戦後編で、ふとした経緯で大橋鎭子と知り合い、共に会社を立ち上げ、「暮らしの手帖」を立ち上げ、それを国民雑誌に仕立て上げていく経緯、彼のアイディアで生み出された「商品テスト」の徹底ぶりが描かれています。
 相当ワンマンで、自分ですべてやらなければ済まない編集者であり、まわりの社員達も結構大変だったと思いますが、花森が戦後、戦時中の責任を感じて献身的に生きてきた様子がわかり、感動しました。
 66年の波瀾万丈の花森の生涯を描いた渾身の評伝です。
 面白く読み切りました。