「日本人と外国人」顧問早水輝好

日本人と外国人

2021年7月28日
早 水 輝 好

 大河ドラマ「青天を衝け」で主人公の渋沢栄一(篤太夫)が幕府使節団の一員としてパリ万博に派遣された。55日もかけた船旅だったそうで、万一の時の跡継ぎを決めての渡航はまさに命がけだったと思うし、現地で見るもの聞くものすべてに驚愕したことだろう。
 私も今でこそ国際派のような顔をしているが、約30年前に人事院の短期在外研修員として5ヶ月間アメリカに行ったのが欧米圏への初めての渡航であり、「青天を衝け」を見ながら、(比較にもならないとは思うが)当時の緊張ぶりを思い出していた。その時はもう33歳で家族連れという責任感もあり、ワシントンの空港で飛行機からの運送用バスに乗ったときに4歳の長男が飛行機に「さよなら」と言ったのが後戻りできないという緊張感を増幅させ、家内によれば空港の入国審査の時には私は相当青ざめていたそうである。(その家内はというと、英語もできないのに、生後10ヶ月の次男をおぶって並んでいたら係員に別のファストトラックの窓口に行くように促され、「アメリカ人は子供に優しいんだ」と思って安心したというから、「母は強し」である。)

 島国の日本はヨーロッパのように地続きでないから、外国に行くことは即「海外旅行」になり、まさしく「異国」への旅だ。私が子供の頃は国内にもそれほど外国人はおらず、修学旅行で外国人観光客に話しかけて英語を試すように言われていた時代である。アメリカに行って最初に思ったのは、「いろんな人がいる」ということだった。黒人が多い社会に慣れるにはそれなりに時間がかかったが、アジア系の人も結構いて特に差別もなく、日本人らしく顔が小作りの次男はcute, cuteと言われて家内は上機嫌だった。
 その後に赴任したフランスでも、ヨーロッパ人だけでなく旧植民地のアフリカ系やアジア系の人も多く、いろいろな人たちがあふれていた。また、パリからは、東京から博多まで新幹線で移動する距離で数カ国を訪問でき、国境を越えると言語も文化も民族も変わるという実に多様かつ複雑な社会がヨーロッパだということを実感した。
 そんな中で、家族旅行の時にオランダで日本人の団体客に混ぜてもらって遊覧船に乗ったら、当時幼稚園児だった次男が「わー、日本人ばっかりだ!」と驚き、団体客の一人が「当たり前だよ。キミも日本人でしょ?」と言ったので、今度は私が「え?当たり前じゃないでしょ?」と驚き、次男もきょとんとしていたということがあった。次男にしてみれば、通っている幼稚園では日本人は2~3人でいろんな人がいるのが当たり前であり、日本人ばかりの状況にびっくりしたのだろうが、逆にまだ当時の日本では、周りに日本人しかいないのが当たり前だったのだと思う。

 今や、飲み屋でもコンビニでも、店員は中国や東南アジアからの労働者が当たり前である。そもそも日本は高齢者社会で若年労働者が足りないと問題になっているのだから、もっと若年労働者をアジアから受け入れてもいい。ところが、せっかく「技能実習生」という制度を作っても、日本語での試験が厳しかったり、高額の手数料を要求するブローカーが横行したりで必ずしもうまく機能していないようである。また、低賃金で長時間労働を強いているところも少なくなく、高額の借金を抱えてやってきて失踪者も後を絶たないという実態は、まるで奴隷制度というか、吉原への身売りや女工哀史を連想させる時代錯誤の状況である。なぜ人権を大切にしているはずの日本で、こんなことが起きているのか、理解に苦しむ。
 日本は難民認定が極めて少なく、収容施設の問題も指摘されている。そもそもこれだけ外国人が働いているのに、移民を認めていない国家ということになっているらしい。欧米を見ると確かに移民問題は難しい課題になっているが、日本ももはや避けては通れない状況ではないかと思う。

 先日開幕したオリンピックでは八村塁選手が旗手を務め、大坂なおみ選手が聖火の最終ランナーになった。見かけが日本人でなくても国籍が日本なら日本人。「ハーフ」という言葉も最近は消えて、いろいろな日本人がいることが当たり前になってきている。そもそも、古代に遡れば「渡来人」という言葉があるほど朝鮮半島から多くの人が日本に渡り、文化や思想、宗教を運んできてくれた。だから当時の日本人は朝鮮半島や中国大陸の人たちと相当交わったはずで、その結果の「日本人」が今の我々である。スポーツで活躍して日本を有名にしてくれる人なら受け入れて、インバウンドの外国人旅行者は歓迎するのに、技能実習生や難民申請者には厳しく当たるというのは筋が通らない。
 いろいろな日本人が活躍している今こそ、どのように外国人労働者を受け入れて共生していくかをもっと真剣に考え、日本らしさも大事にしながら次世代のための多様な日本を作っていくべきではないだろうか。

(余談)写真はイギリスで購入したカレンダーで、国民性をユーモラスに(半ば自虐的に)
   紹介するもの。この表紙では、他の国の人たちは美味しそうに「いただきます」と
   言っているが、イギリス人は寂しい食材を前にして、”Never mind!”と言っている。
   日本では外国人が日本の素晴らしさを紹介する番組がはやっているが、もっと成熟
   してこんなユーモアで日本人を紹介できるようになれたら、やっと「大人」の仲間
   入りなのかもしれないと思う。