「地域環境力」

 環境省で最初に手掛けた仕事のうちの一つに、「地域づくりにおける環境配慮ガイドライン」を作成したことがあります。「地域づくり」という言葉がいつごろから使われだしたのかはよくわかりませんが、最近の「地方創生」につながる言葉です。私が大分県庁で「一村一品運動」を推進していた頃には既に使われていましたので、30年以上前から使われていました。日本経済が高度成長から低成長時代へと変わり、「地域開発」と言われていたものが「地域づくり」になったように思います。ただ、地域開発といえば外部資本による大規模開発というニュアンスが強いのに対し、地域づくりは地域の人々によってもともとそこにある資源を活用して事業や活動を生み出していくようなニュアンスだったように思います。いずれにしても、そういった事業や活動により雇用が創出され、地域を活性化していくことにつながると捉えられていました。
 「地域づくりにおける環境配慮」ということですが、環境省では既に、単に公害防止ということではなく地域にある資源を利用して「地域づくり」に資するような施策を、という発想がありました。公害問題といえば、大気の汚染、水の濁り、騒々しい音、いやなにおい等が問題になりますが、これらを逆手にとって、汚染のないあおぞら、澄んだ名水、懐かしい音、いい香り等を選んで「地域づくり」のための資源にしていこうとするものです。
 最初が名水百選です。1985年に昭和の「名水百選」が、2008年に「平成の名水百選」が選定されています。名水百選で選ばれた市町村が集まって全国大会を行っていますが、私も島根県海士町の「天川の水」や愛媛県西条市の「うちぬき」を大会に合わせて視察したことがあります。「天川の水」はかつて僧行基が湧き水に霊気を感じ、聖域としたというもので、水の保全活動を通じて、子供たちへの環境教育にも役立っていました。西条市の「うちぬき」は西条市内で広範囲に自噴する湧き水のことです。ミネラル成分のバランスのよい水で、豊富にでることから古くから飲用水、生活用水、農業用水、工業用水等あらゆる用途に利用されていました。今でも西条市の旧市街地には水道施設がなく地下水を飲用水や生活用水に利用しているそうです。
 次が「星空の街・あおぞらの街」の全国大会です。これは1988年に開催された「星空の街・あおぞらの街サミット」で採択された「空を生かし、空を楽しむ宣言」に賛同する自治体等で構成する協議会が毎年開催しているものです。私も局長の時に滋賀県の多賀町で開催された大会に参加しました。小学生の星空観察の発表がありましたが、会場にいたお父さんやお母さん方に環境について関心を持ってもらえたらと思ったものでした。
 その他、1996年に「残したい日本の音風景百選」を、2001年に「かおり風景百選」を選定しています。音風景にはせせらぎの水の音や野鳥のさえずる音等が選ばれていますが、SL汽車の音も入っています。かおり風景にはラベンダーや梅林、金木犀の香り等もありますが、線香や焼き肉店などのにおいが選ばれているところもあります。
「環境配慮のガイドライン」でははじめの一歩ということで、そういった地域にある資源にまず「気づく」ことが大切である、そして、「気づき」には埋もれている資源のみならず、これまではむしろ厄介なものであったようなものを逆手にとって資源化していくことも大切である、と書いたように記憶しています。例えば、厄介と思われていた強風で風力発電をすることなどです。そして、住民、行政、地域の事業者が連携して一体となって取り組むことにより、地域に活力がうまれるのではないか、ということです。当時、「鈍感力」というような「〇〇力」という言葉がはやっていたことを踏まえ、「地域環境力」という言葉で表現し、環境白書でも大きく取り上げました。白書を目にした人によって流行らないか、などとも思いましたが、いつまでたってもほとんど耳にしません。今では環境省のホームページにも出てきません。少々寂しい気持ちです。

(島根県海士町「天川の水」)
(出展 環境省ホームページ https://water-pub.env.go.jp/water-pub/mizu-site/meisui/data/index.asp?info=64