都市プランナーの雑読記 その106
芦原伸『へるん先生の汽車旅行 小泉八雲と不思議の国・日本』集英社文庫、2017.03
2025年12月9日
大 村 謙二郎
小泉八雲の小説、エッセイはそれほど読んでいないが、彼がいろいろ各国、各地を放浪して、日本にやってきたこと。ギリシア人の母とアイルランド人の父のあいだに生まれ、いろいろ数奇な生涯をたどってきた人だということは、なんとなく知っていた。
著者の芦原は鉄道ジャーナルの記者をやっていた作家で、いろいろな旅や鉄道に関する作品が多い方のようだ。その芦原が、小泉八雲がたどった土地を鉄道でたどりながら、彼の人生、作品を味わっていこうとの趣向のエッセイが本書だ。
序章で、ラフカディオ・ハーンがその作品「生神様」で安政の南海大地震で起きた津波を題材にしたこと、この作品が世界共通語のTSUNAMIの発信元であったことを導入として、ハーンが訪れた土地を芦原も追体験しながらエッセイを続けている。
前半は、アメリカ大陸鉄道を横断しながら、ニューヨーク、シンシナティ、トロント、ヴァンクーバーまでの紀行がつづられている(1章から3章)。
後半はハーンが日本の横浜に着いてからの移動の旅を、横浜から焼津へ、焼津から姫路へ、姫路から松江へとハーンの作品をたどりながら、旅を続けている(4~6章)。
さらに、ハーンが松江に職を得て、生活をはじめ、日本での妻、小泉セツとの出会い、熊本への引っ越し、神戸、東京へと八雲とセツの暮らしぶりを追いかけながら、旅と作品を描いている。
八雲はずっと長く松江に住んでいたのかと思っていたのだが、そうではなく、日本の各地を転々としていたことを知った。セツの助けを借りながら、日本の民話を採取して、日本の事情を理解していたとのことだ。八雲は必ずしも長くないその人生の中で、膨大な作品を英語作品として残していたが、日本語の読み書きはそれほど達者ではなかったことなどを、本書を通じて知った。
現在、NHKの朝ドラでハーンとセツの生活ぶりが描かれているようだが、私は見ていないので何ともいえないが、小泉八雲の漂白の人生を鉄道の旅と重ね合わせて書いた面白い作品として楽しめた。
