顧問鷺坂長美「倉敷チボリ公園」

倉敷チボリ公園

2024年8月7日
鷺 坂 長 美

 1993年4月から1997年3月まで、岡山県に出向し、うち1年間は企画部長という職に就きました。その時、倉敷チボリ公園建設事業に関わりましたが、その時のお話です。
 チボリ公園は日本でどの程度知られているかわかりませんが、ディズニーランドと同じテーマパークの一種です。デンマークのコペンハーゲンにあり、1843年にゲオ・カールテンセンという人が、だれでも楽しめる市民のための娯楽施設を、ということで作った公園と言われています。「人魚姫」で有名なアンデルセンが度々通い、童話の構想を練ったとか、ディズニーランドの構想を練るためにウォルト・ディズニーも何度も訪れたと言われています。ジェットコースター等の遊具ももちろんありますが、デンマークの四季を彩るガーデンもあり、子供から大人まで楽しめるように工夫されています。
 当初は岡山市の事業でした。1989年が市制100周年ということで、その記念事業としてこのチボリ公園を誘致しようとしました。建設・運営を担う株式会社、チボリジャパン社が、岡山県・市とともに、岡山市を中心とする財界からの出資により設立されました。公園の予定地も岡山市内の国鉄時代の岡山操車場跡地です。
 しかしながら、チボリジャパン社の運営問題から、地元の反対運動が高まりました。当時の市長は市民の声を聴くべく、市長職を辞し、市長選に再出馬しましたが、選挙で敗れてしまいました。本来なら、これで計画は頓挫するところでしたが、岡山県当局は、当初の目的から離れても、地域活性化の起爆剤という観点から事業を継続することとしました。東京ディズニーランドが大成功を収めているということもあり、「東のディズニーランド、西のチボリ」とも言われていました。岡山市が事業から撤退したので、倉敷美観地区の駅をはさんで北側にある工場跡地が候補地とされ、倉敷市の全面的な協力のもと県が中心になって事業を進めていました。私が赴任したのは、ちょうどそのころです。
 はじめにチボリジャパン社の立て直しが図られます。県の副知事を社長にし、新たな資金計画を策定のうえ、倉敷財界を中心に出資を依頼します。当時の倉敷市長が積極的だったこともあり、一定の資金が確保できました。次に公園のレイアウト等についてです。地元との調整は欠かせません。県議会に説明するとともに、地元説明会も何度も開催しました。こうした事業を進めるには必ず賛成派と反対派に分かれますが、工事期間中や開園後に想定される周辺環境への影響などさまざまな問題について丁寧な対応が求められました。
 一つ厄介に思ったのは、そうした地元との調整よりも、岡山県知事に対する住民訴訟でした。具体的には、県職員を運営会社に給与付きで派遣していましたが、それが違法で、その間の給与分について県知事に対しては損害賠償を、チボリジャパン社に対しては不当利得返還を求めた訴訟です。当時の住民訴訟は、住民が地方公共団体に代わってその職員等の個人に対して損害賠償等を求めるものでしたので、県知事等の個人に対してかなり高額な賠償請求になります。地方公共団体が「まちづくり」のために株式会社等を設立して、出資する例はたくさんあり、いわゆる第三セクター方式による「まちづくり」ですが、立ち上げ当初の経営から職員を派遣して給与を支払うことは多く行われていました。チボリジャパン社についても同様です。敗訴すれば、やっと軌道に乗りかけた公園建設が再びおかしくならないか、と心配もしましたが、一方では県条例等の手続きを踏まえて支給した給与分について損害賠償として知事個人を訴えられる制度というものは、いかがか、等と思ったものでした。県の立場を判事に説明すべく証人尋問の機会をいただいて、証言台にたちましたが、メモが見れないので議会答弁とは勝手が違い苦労したことを思いだします。私の在任中に地裁での判決がありました。派遣自体は違法とされ、チボリジャパン社への不当利得返還請求は一部認容されましたが、知事への損害賠償請求は過失なしとして棄却されました。1994年のことです。
 私が担当を離れた後もチボリ公園建設事業はその後も粛々と進み、1997年に開園します。当初こそ多くの入場者でにぎわいましたが、その後の状況はあまり芳しくなく、2008年12月末をもって閉園となりました。現在では民間の商業施設と都市公園となっています。
 一方、住民訴訟については、最高裁でチボリジャパン社についても請求棄却となりましたが、地方自治法もその後改正され、地方公共団体に代わって知事や職員等の個人を訴える訴訟ではなく、地方公共団体に対して、違法な支出をした知事や職員等の個人に損害賠償等を求める義務付け訴訟に再構成されています。つまり訴えの相手方は知事や職員等の個人ではなく、地方公共団体となっています。
 なお、職員派遣の方はその後、公益法人等への一般職の地方公務員の派遣等に関する法律が制定され、現在では一定のルールができています。

(開園後購入した倉敷チボリ公園のメンバーズカード 有効期限はないのですが)