弁護士小澤英明「位牌・仏壇考」

「位牌・仏壇考」(2024年7月)

2024年7月26日
小 澤 英 明

 8月に佐世保に行く。東京に5年前から来ていた父が先月亡くなった。佐世保には5年間空き家になっていた実家の建物があり、今回はその中にある仏壇の内容を確認する目的である。仏壇自体は古くなっているので、買い替える必要があるが、位牌はいくつもあるので、どうするのかが問題である。3年前に母が亡くなっており、今回、父と母の両名の位牌をつくるが、先祖の位牌をどうしようかと思っている。長年仏壇の中で大事にされてきたので、受け継ぐ立場では、そのまま受け継ぐのが筋だと思うのだが、位牌の数が増えると買い替える仏壇の大きさにも影響が出る。
 私の場合、直系尊属は戸籍によって明治時代から明らかになったので、位牌に刻まれている人の多くに親近感を覚えてしまっている。位牌も「お宝」感覚と言うと先祖に失礼かもしれないが、せっかく受け継ぐ以上は、できるだけ先祖を身近なものとして、先祖とのつながりを「楽しみたい」気分である。そのため、買い替える仏壇選びにも力が入っている。父が死亡して1か月ほどたった時に、葬儀社の紹介ということで、仏壇屋さんから、仏壇のパンフレットが届いた。パンフレットを見ると、今や、「上置き型」という家具の上に置くコンパクトな仏壇が主流であることがわかる。つまり、「床置き型」のものは少ない。また、デザインもモダンなもの(扉を閉めると普通の家具と見た目がまったく変わらないもの)と伝統的なものとがあるが、モダンなものが主流である。
 パンフレットで予備知識を仕入れて、複数の仏壇屋さんを訪ねたが、伝統的なデザインのもの(見事な彫り物があるもの)は種類が少ないことを実感した。置いてもなかなか売れないとのこと。そうでしょうね、と思った。見事な彫り物であればあるほど、おどろおどろしい印象を受けるので、現代人にウケるはずはないのである。そう言うと、伝統工藝士の方々に何とも申し訳ないのだが、今や、魂とか、仏様とか、そんなことを言われても若い人にはピンとくるわけもなく、不肖68歳の私でも似たようなものである。「家」の宗派も多くの日本人にとってはあってなきがごとしで、私も例外ではない。そのような世俗にまみれた身では、金額、デザイン、大きさが仏壇選びの基準となる。ところで、仏壇は、上置き式より床置き式が高額になるが、それは使う材のボリュームが原因だから当然として、上置き式の中でも、また床置き式の中でも、価格はさまざまである。モダンデザインでは、結局、材の種類と、表面板の厚み(木の板を貼らずプリント地というものもある)と、国産・海外産の区別とで価格が決まっていることがわかった。種類的には、黒檀、紫檀、屋久杉、桑が高く、欅や楡がその次で、ナラやタモあたりがその次か。
 ある仏壇屋さんに入って、お洒落な仏壇の前で足を止めた。店員さんが「隈研吾さんのデザインです」という。「隈研吾もついに仏壇にまで手を伸ばしたか」と口に出したら、店員さんが、「信濃町の納骨堂のデザインをお願いした縁からなのですよ」と言って、その納骨堂のパンフレットを見せてくれた。おしゃれな納骨堂である。茶化して悪かったような気がした。