都市プランナーの雑読記-その81/沖 大幹『水の未来-グローバルリスクと日本』

都市プランナーの雑読記 その81

沖 大幹『水の未来-グローバルリスクと日本』岩波新書、2016.03

2024年7月25日
大  村 謙二郎

 沖さんは国際的に活躍されている、水危機問題や気候変動等に取り組まれている学者です。小著ですが現在の水危機問題がグローバルな広がりを持っている一方で、ローカルにしか対応出来ない問題があること、水の量の問題、質の問題を含めて、冷静に科学的に取り扱うことの必要性を説いています。
 いたずらに危機をあおるのでなく、また、ある程度の蓋然性で気候変動が世界各地で水問題(不足問題、汚染問題、洪水問題、集中豪雨問題等)と密接な関係があることはいえるが、まだ不明な点があることを認識した上で、気候変動への緩和策、適応策を組み合わせて、危機に対処することを、説得力を持って示しています。
 本書は4章および終章の5章構成です。
 第1章では「地球の水の何が問題か」と題して、世界各地で起こっている水問題の諸相を示しています。
 続いて第2章「グローバル水リスクに備える」では、ライフサイクルアセスメントおよびウォーターフットワークプリントという概念、指標を説明しながら、各地の水リスク対応を説明しています。ウォーターフットワークプリントという指標の取り方もさまざまな考え方があり、まだ熟した指標ではないとのことで、このあたりは誠実な著者の説明に信頼が増します。
 第3章「仮想水貿易から見た食糧安全保障」では食糧生産にどの程度の水が必要かについての計算例、各国の食糧輸出入によって、仮想水貿易がどのように推移しているのか、また、食糧自給率を高めることが必ずしもグローバルな水問題解決につながらない理路を説明され、蒙を啓かれます。日本は一見、水に恵まれているように見えますが、食料輸入などを通じて、大量の水輸入国であることが示されています。
 第4章「気候変動と水」では、気候変動政府間パネル(IPCC)での議論、各年の評価報告書をレビューしながら、気候変動、特に水分野での適応策とグローバルリスクマネジメントの考え方を解説しています。自然科学的に完全な解決策が提示されるわけではないとしても予測されるリスクを軽減させる、順応的マネジメント手法の重要性が説かれています。
 終章では悲観論に陥ることなく、未来可能性構築に向けた、考え方を提示しています。
 さっと読める内容の本ではありませんが、丁寧に説明されており、現在の水危機問題への先端の考え方を知ることができて有益でした。