都市プランナーの雑読記-その79/井上章一、青木淳『イケズな東京 150年の良い遺産、ダメな遺産』

都市プランナーの雑読記 その79

井上章一、青木淳『イケズな東京 150年の良い遺産、ダメな遺産』中公新書ラクレ、2022.01

2024年6月17日
大  村 謙二郎

 建築史家というか、文化評論家というか、柔らかい物言いだけど、常識に逆らうというか、ひねった解釈を紡ぎ出す日文研所長となった井上章一と建築家で京都市美術館長をつとめる青木淳との対談、リレーエッセイ、論考を編集した新書本です。
 建築、都市に多少関心ある人には気軽に読めて、時々二人の意見、考えに示唆を受けるというような本です。短時間で読めるし、まあ、そういった見方も出来るよねといった感じの本です。
 タイトルに東京が出ていますが、東京を刺身のつま風に多少取り上げるとしてもそのやり方が独特です。二人が親しくしている京都との対比や国際比較の中で、日本の都市、建築が自由に取り上げられています。ありがちな東京一極集中批判、大規模開発批判にとどまらない、少し余裕と皮肉、ひねりを効かせた対談、エッセイ応答のおもむきがありそこが面白いといえば、面白いです。
 学術的な知見はほとんど無いし、井上のすこし片寄った意見はどうかと思う点もありますが、物事を多面的に裏側から見るという点では興味深く読めます。
 井上は、イタリアはローマの街並みを守るために、空爆がはじまるとすぐに白旗を揚げて、降伏したが、日本では守る建築文化、都市もないので、3年半空爆、空襲に耐えたという説はにわかに信じがたいです。でも日本の建築がスクラップ&ビルドのサイクルが異様に早く、そのことが、数多くの建築家に仕事与えてきたという説は、なるほどというか、ひねりが効いているとおもいます。
 青木淳のことは初めて知しりましたが、若いときに磯崎新の事務所で修業し、その後独立して、建築事務所を構え、多くの建築コンペで受賞した著名建築家とのことで、私は不案内でした。東京芸大の教授を務めていますが、京都市美術館の改修コンペで一席となり、彼の事務所のプランに基づいて、リフォームがされた経緯も有り、2019年から京都市美術館(現在名は京都市京セラ美術館)の館長もしています。映画や文学にも造詣が深いようで、彼のエッセイの中には映画作品がいくつか取り上げられ、また谷崎潤一郎の陰影礼賛をはじめとするエッセイが引用されています。幅広い、文化人で美術館長なのはなるほどと思わせます。
 東京と京都を対比的に論じる二人の高等遊民的、文化的やりとりも面白く、ちょっと毛色の変わった都市論として面白く読めました。